“環境”を競争力のきっかけに、セイコーエプソンが考える日本の製造業の勝ち筋:製造業は環境にどこまで本気で取り組むべきか(3/5 ページ)
大手精密機械メーカーとして、環境についての世界的な要求の高まりを事業成長の機会として生かそうとしているのが、セイコーエプソンだ。「環境ビジョン2050」を掲げる同社の考え方と取り組みについて、セイコーエプソン 地球環境戦略推進室 副室長の木村勝己氏に話を聞いた。
バイオマス発電所の建設や信州Greenでんきの活用も推進
MONOist 全拠点の再生可能エネルギー化も含め、脱炭素についてはかなり積極的な取り組みを進めているように見えます。
木村氏 セイコーエプソンでは、5、6年前から電力会社に働きかけて再生可能エネルギーの購入についての交渉を進めてきました。そして、2023年末には全拠点での使用電力の再生可能エネルギー化を達成しています。交渉を開始した当時は電力会社からも「本当にその量を買うのですか」と疑いの目で見られていました。ただ、一時的なコストアップになるものの、内部留保で眠らせるくらいであれば将来に向けた環境投資に使う方が有意義だと考えて積極的に投資をしてきました。
再生可能エネルギーの活用環境はまだ世の中にしっかり定着しているとは言えません。再生可能エネルギーが市場で当たり前の存在になっていかないとコストは下がりません。日本はもともと再生可能エネルギーの活用総量が他国に比べて少なく、そのためにコストが高止まりしているという課題があります。われわれが再生可能エネルギーをより多く購入することで、使用する総量が増えコストダウンにもつなげたいと考えています。積極的に先導して投資を進めていくつもりです。
また、再生可能エネルギーを市場から購入するだけではなく、本社のある長野県を中心に、「信州Greenでんき」の活用をベースとして再エネ電源の開発を支援する「信州Green電源拡大プロジェクト」(※)を進めているほか、自前のバイオマス発電所の建設計画も発表しました。こうした共創による再生可能エネルギー市場の拡大にも取り組み、自社内での活用の拡大とともに、市場の醸成にも積極的に働きかけています。
(※)信州Green電源拡大プロジェクト:中部電力ミライズ、長野県企業局、長野県内の民間企業が参画し、CO2フリー電気の一部の収益を活用し、長野県内における再エネ電源の新規開発や、普及促進策を支援する取り組み
難易度が高いスコープ1のカーボンニュートラル化
MONOist こうした取り組みを見るとカーボンニュートラル化については実現可能性が高まっているようにも見えますが、めどは立っているのでしょうか。
木村氏 ここまでは順調に進んでいると見ていますが、カーボンニュートラル化は、まだまだ簡単に実現できるわけではないと考えています。先述したように、「GHGプロトコル」のスコープ2に当たる購入電力に関わる領域については既に100%再生可能エネルギー化が達成できています。残る領域は直接排出に当たるスコープ1ですが、こちらが難しいと認識しています。
スコープ2は再生可能エネルギー化ができているため、スコープ1で直接排出している機器や設備の電化が進めば、カーボンニュートラル化はかなり進みます。しかし、例えば半導体工場のボイラー関係などは蒸気や熱が必要で、完全に電化するのは現実的ではありません。これらを現在の技術で採算性のある形で電化するのは難しく、そういう領域をどうするかという問題が残っています。代替技術として、メタネーションを検討するのか、水素の活用を本格化するのか、それともCO2吸収技術で解決する方向を目指すのか、見極めていかなければなりません。技術進化が日進月歩で続いているため、最適な技術を採用できるようにしていく必要があると考えています。
また、半導体の製造プロセスで温暖化物質を扱っており、その一部で直接排出している部分も残っています。今は除害装置を導入してこれらの物質の排出を抑制していますが、それでも全ては取り切れておらず、これらをどうするかという問題も残されています。このようにスコープ1の領域については、技術的にブレークスルーが必要な部分がかなり多く、一筋縄ではいかないと捉えています。
一方で、原点となる工場の省エネルギー化もより一層高いレベルで進めていく必要があると考えています。セイコーエプソンの工場は古い設備も多くあるので、これらを順次新しい設備に置き換えることで、省エネ化を進めていきます。設備の老朽化については更新時期もあるので、生産企画本部で予算化して2030年までのロードマップを組んで進めています。地道に計画的に進めていける部分と、技術的なブレークスルーや法制度的などの“飛び道具”の両面を考えて戦略を練っていきます。
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