固体潜熱蓄熱材で電源を安定化、多機能の超小型人工衛星「DENDEN-01」の全貌:宇宙開発(1/4 ページ)
関西大学、福井大学、名城大学、アークエッジ・スペースは、4者の共同研究グループで開発を進めてきた1Uサイズ(10×10×10cm)の超小型人工衛星「DENDEN-01」の特徴や開発の意義などについて説明した。
関西大学、福井大学、名城大学、アークエッジ・スペースは2024年6月25日、関西大学千里山キャンパス(大阪府吹田市)や東京都内、オンラインで会見を開き、4者の共同研究グループで開発を進めてきた1Uサイズ(10×10×10cm)の超小型人工衛星「DENDEN-01」の特徴や開発の意義などについて説明した。DENDEN-01は既に完成しており、同年6月4日にJAXA(宇宙航空研究開発機構)筑波宇宙センターへの引き渡しが完了している。今後はJAXAが輸送準備を整え、同年9月に米国で打ち上げ予定のロケットでISS(国際宇宙ステーション)に運ばれた後、10月に放出される予定である。
DENDEN-01は2010年代以降に打ち上げ数が大幅に増加している重量10kg以下の超小型人工衛星である。打ち上げ時の外形寸法は100×100×113.5mmで、軌道上で上面に折りたたんだ3面分の太陽電池パドルを展開した場合には309×204.5×113.5mmとなる。質量は1.32kg。
DENDEN-01のような10×10×10cmの立方体サイズの超小型人工衛星はキューブサットとも呼ばれている。現在、超小型人工衛星は、年間数百基が打ち上げられており、もはやそれほど珍しいものではない。DENDEN-01の共同研究グループのプロジェクトマネージャーを務める関西大学 化学生命工学部 准教授の山縣雅紀氏は「キューブサットは規格化された機器などを容易に入手可能であり、低コストで開発期間が短いなど多くのメリットがある。しかしながら、人工衛星がミッションを遂行するのに不可欠な“電源”の供給に課題がある」と指摘する。
人工衛星には、太陽電池パネルによって得た電力をさまざまな機器に分配するとともに、太陽光が当たらない期間も電力を供給できるようにリチウムイオン電池などのバッテリーに充電する「電源システム」が搭載されている。人工衛星を安定的に動作させ続けるためには、0℃以下だと性能が大幅に下がるバッテリーの温度を充放電が安定して行われる範囲内に収めておく必要がある。
質量が数十kgレベルの小型衛星以上の場合、一定程度以上のサイズに基づく熱容量と機器から発生する熱などを活用することで熱設計を行いやすく、バッテリーの温度を最適な範囲内に収めることが容易だ。しかし、キューブサットは熱容量が小さい上に機器からの発熱が少ないため、ヒーターを使ってもバッテリーの温度が0℃以下になることが多い。
DENDEN-01は、キューブサットにおいて電源システム内のバッテリーの温度を0℃以上に保つため新たに潜熱蓄熱材を採用している。潜熱蓄熱材は、物質の相変化に伴う転移熱(潜熱)を利用して、化学変化によって温度を一定に保つことができる材料だ。一般的な潜熱蓄熱材は固体と液体の相転移を利用するが、宇宙空間では液体状態のときの運搬やや利用が難しい。そこで、今回新たに採用したのが、固体の結晶構造が温度変化によって変わる相転移を利用する固−固相転移型潜熱蓄熱材(SSPCM)である。セラミックス系SSPCMである二酸化バナジウムは68℃で相転移が起こるが、微量のタングステンを混ぜ合わせることで、相転移温度を約5℃まで低下させることができる。
共同研究チームは、この二酸化バナジウムにタングステンを混ぜたSSPCMを用いてバッテリーケースを作成し「電源温度安定化デバイス」を開発した。新日本電工との協業によって最適な材料開発を行い、5℃を中心温度に±5℃となる0〜10℃の温度範囲で、バッテリーである18650サイズのリチウムイオン電池の温度を保てるようにした。「これまで宇宙機に有機系のSSPCMが搭載されたことはあったが、セラミックス系は初の事例になる」(山縣氏)という。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.