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ICT先進国エストニアのバイオバンクとクラウドネイティブ技術海外医療技術トレンド(108)(3/4 ページ)

本連載第30回および第96回で、デジタルヘルス先進国エストニア発のICTの事業展開を紹介したが、今回はバイオバンクの取り組みを取り上げる。

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同時並行で進む欧州域内の越境ゲノムデータバンク構築の動き

 ここまでエストニアのバイオバンクを巡る動向を取り上げてきたが、以下では、同時並行で進む、欧州域内レベルの動きを紹介する。

 2018年4月10日、欧州委員会は、2022年までにEU域内で少なくとも100万人のシーケンスゲノムにアクセス可能にするという、EU加盟国による2018年宣言を発表し、その実現をめざす組織として、1+MGイニシアチブを創設していた(関連情報)。

 1+MGイニシアチブは、欧州委員会が2018年4月25日に公表した「医療のデジタルトランスフォーメーションのためのEUアジェンダ」(関連情報)の一部を構成するものであり、本連載第83回で触れた欧州保健データスペース(EHDS)の目的と足並みをそろえている点が特徴だ。

 そして、1+MGイニシアチブは、欧州全体に渡ってゲノムおよび対応する臨床データへのセキュアなアクセスを実現し、画期的な研究や保健医療政策の策定を支援するとともに、疾病予防を改善する潜在力を持った、個別化された医療処置を動機づけることを目的としている。具体的には、以下のような役割を果たすとしている。

  1. 1+MG宣言の実行に関する欧州委員会/加盟国間の良好な調整および協力を保証する
  2. 1+MG宣言で示された優先順位や行動に関連した戦略的選択/方向性の策定や実行について、署名国間でコンセンサスやコミットメントを構築する
  3. 業務/専門家のレイヤー(1+MG作業分科会)における作業のアウトカムやアウトプットに関するフィードバックを推奨/付与する
  4. 1+MG宣言の実行の詳細な点に関して作業する業務/専門家のレイヤーに対して、戦略的な方向づけを明確化する
  5. 時折、ゲノムデータに関する法的提案およびその他の法的文書、または規制フレームワークに関して、欧州委員会に助言する
    • 欧州委員会は、第1回会議で選出された署名国の代表とともに、1+MGグループ会議の共同議長を務め、DG CNECTは、グループの事務局を提供する

 さらに図2は、1+MGイニシアチブのロードマップの全体像を示している(関連情報)。

図2
図2 1+MGイニシアチブのロードマップ(2018年〜2027年)[クリックで拡大] 出所:European Commission「European '1+ Million Genomes' Initiative」(2024年5月2日更新)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 このロードマップは、「ガバナンス」「トラストフレームワーク」「インフラストラクチャ」「データ」の4つを軸に、「設計&検証フェーズ」(2018年〜2022年)と「スケールアップ&持続可能性フェーズ」(2023年〜2027年)から構成される。

 最初の設計&検証フェーズでは、「ホライズン2020」の「B1MG(Beyond 1 Million Genomes)」(関連情報)プロジェクトが、ロードマップ実装のオペレーションレベルにおける支援と調整の役割を果たしている。これにより、データアクセスを可能にするようなインフラストラクチャの設定、法的/技術的ガイダンス、データ標準規格、要求事項、そしてベストプラクティスに関する合意形成が促進された。加えて、B1MGは、持続可能性があるデータ共有インフラストラクチャの構築にも焦点を拡大している。このインフラストラクチャを通じて、疾病に対する科学者の理解を強化し、臨床医による個別化医療を支援して、患者に便益をもたらし、医療システムの効率性を改善して、欧州経済に寄与してきた。

 なお、欧州全体に渡るゲノムデータや保健データへのセキュアなアクセスを保証するための推奨事項、ガイドライン、EUのベストプラクティスなど、第1フェーズの成果物は、B1MGの1+MGフレームワークWebサイトで公開している(関連情報)。

 次のスケールアップ&持続可能性フェーズに関連して、2023年11月14日、1+MGの改訂版2023年〜2027年ロードマップが採択された(関連情報)。

 改訂版ロードマップは、プレシジョンメディシン(PM)の実現に向けて、市民の情報や権利を保護しつつ、研究者やイノベーター、政策立案者が、欧州全体に渡って高品質のゲノム/保健医療データにアクセスできるようにすることを目的としている。加えて、豊富なユースケースを通じて、ニーズ駆動型の開発、継続的検証、最適化をサポートするとともに、研究/イノベーションプロジェクトなど、協働的な検証ケースに貢献するとしている。

 図3は、1+MGイニシアチブの改訂版ロードマップの全体像を示している。

図3
図3 1+MGイニシアチブの改訂版2023年〜2027年ロードマップ[クリックで拡大] 出所:European Genomic Data Infrastructure 「1+MG Framework and Roadmap launch - paving the way to providing secure access to genomics and health data across Europe」(2023年11月15日更新)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 改訂版ロードマップは、個別化医療の実現に向けて、以下の5つの柱から構成されている。

  • 1+MGフレームワーク:欧州全体に渡る1+MGイニシアチブの実装/デプロイメント支援のための推奨事項およびガイドライン。本フレームワークは、1+MG作業部会を通じて、27カ国の国家レベルの専門家により開発された
  • 1+MGデータインフラストラクチャ(GDI):2026年までに少なくとも15カ国(2024年時点で6カ国)で運用するために、連携型のセキュアなインフラストラクチャで、連携型分析/学習を可能にする。本データインフラストラクチャには、開発、検証、バリデーション、デプロイメントの各ステップが含まれる
  • アクセス可能な「1+MG証明」データ:シーケンシングや管理、品質向けの最低限の標準規格を満たすデータを、「1+MG証明」と表示する
  • 国レベルのエンゲージメント−国レベルを反映したグループ(National Mirror Groups):インフラストラクチャのデプロイメントおよび運用、データの録取/アクセス/分析を促進するために、各国のアクターと連携した、国レベルで1+MGフレームワークを実装する専門家によるグループ
  • 欧州保健データスペース(EHDS-2)およびその他のイニシアチブプロジェクト(例:GDI(欧州ゲノムデータインフラストラクチャ)、TEHDAS(欧州保健データスペースに向けた共同行動)、HealthData@EU、EUCAIM(欧州がん画像連盟))との調和と統合:欧州相互運用性フレームワークと共通ビジョンの共有に向ける。1+MG実装からのリソースは、ゲノムデータや保健データの管理が必要なあらゆるイニシアチブプロジェクトで利用可能である

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