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ICT先進国エストニアのバイオバンクとクラウドネイティブ技術海外医療技術トレンド(108)(2/4 ページ)

本連載第30回および第96回で、デジタルヘルス先進国エストニア発のICTの事業展開を紹介したが、今回はバイオバンクの取り組みを取り上げる。

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さまざまなデータ利活用のニーズに対応するタルテュ大学のゲノム研究体制

 タルテュ大学は、2018年1月1日、ゲノムベースの研究、教育およびその他の科学領域におけるシナジー拡大の促進を目的として、エストニアゲノムセンターとエストニアバイオセンターを統合したエストニアゲノミクス研究所を新設した。現在、同研究所は、以下のような部門から構成される。

  • エストニアゲノムセンター(関連情報):
    主に、集団における量的形質の可変性と疾患リスクの表現に関して、機能ゲノミクスまたはDNAシーケンスバリアントの効果を研究している。エストニアゲノムセンターは、新たな研究領域として、システム生物学、マイクロバイオーム、薬理遺伝学を立ち上げている
  • エストニアバイオセンター(関連情報):
    主に、ヒトの遺伝的多様性およびこれに大きなインパクトを及ぼしてきた進化的要因/イベントを研究している。
  • ゲノミクスコア施設(関連情報):
    研究者や臨床医およびその他向けに、米国イルミナの最新技術(例:MiSeq、NextSeq500、NextSeq2000、iScan)を利用して、ジェノタイピングおよびシーケンシングサービスを提供する
  • エストニアバイオバンク(関連情報):
    エストニアの集団の健康および遺伝に関する遺伝子情報を収集し、遺伝子研究を進めて、研究成果をエストニアの医療システムに適用する
  • ゲノミクス・進化・医療センター(関連情報):
    共通の疾患に対する感受性の違いに導いた集団のさまざまな進化経路を説明するような進化的な意識のフレームワークに、ゲノム医療の進化を適用する。このためには、多様なエスニックグループにおける遺伝学的リスク要因や、複雑な人間集団における疾患に対して、根底にある遺伝学的素因を浮き彫りにするようなツールに関する知識が必要とされる
  • エストニアバイオバンクイノベーションセンター(関連情報):
    海外の民間セクターにとって魅力的で信頼性のあるパートナーとして、バイオバンクの構築を主導する

 資金調達面からみると、エストニアバイオバンクは、社会事業省の国家予算を主財源として運営されている。バイオバンクが、組織検体を収集し、健康状態の記述や家系図を編集し、仮名化や非仮名化を行って、遺伝子研究を実施する場合、バイオバンク内およびその他のソースから提供されるデータソースの容量に応じて、国家予算から支出される仕組みになっている。

標準化されたICT基盤とプロセスが支えるゲノムデータ解析

 本連載第96回で触れたように、エストニアでは、一般データ保護規則(GDPR)やネットワーク・情報システムの安全に関する指令(NIS指令)の順守を前提として、国民共通のデジタルIDシステムや、オープンソースベースの電子政府向けデータ連携基盤「X-Road」が広く利用されてきた。このようなICTプラットフォームの経験/ノウハウをベースに、タルテュ大学では、エストニアゲノムセンターを中心に、「GRANVIL」「GWAMA」「MIXFIT」「MR-MEGA」「RegScan」「SCOPA」「STEROID」「Cropper」「Manhattan Harvester」などさまざまな支援ツールを開発/提供している(関連情報)。

 プロセスの観点からエストニアバイオバンクを見ると、ドナーが、「ヒト遺伝子研究法(HGRA)」(2001年1月8日施行、関連情報)に準拠した包括的なコンセントフォーム(関連情報、PDF)に署名すれば、エストニアバイオ倫理・ヒト研究委員会が承認した研究向けに、研究者が保健医療/ゲノムデータを利用することができる仕組みになっている。全ての被験者は、募集イベント、メディア、知人などを通じた告知や、その他の理由で一般医(GP)の診療所や病院で受診した後に、無作為でバイオバンクにリクルートされた個人である。タルテュ大学によると、HGRAにより、バイオバンクの参加者との再契約やインタビューが可能となり、データや試料にアクセスするためのルールが、明確で透明性の高いものになるという。

 エストニアバイオバンクでは、被験者のリクルートに際し、以下のような質問票を提示してデータを収集している。

  • 個人データ(出生地、自宅住所、国籍など)
  • 家系データ(4世代に渡る病気の家族歴)
  • 学歴と職歴
  • ライフスタイルデータ(運動、食習慣−FFQ(食物接触頻度)、喫煙、アルコール消費、女性の健康、生活の質)

 エストニアバイオバンクのデータベースは、全国レジストリ(がんレジストリ、死因レジストリなど)、病院データベース、レセプト処理を取扱う全国健康保険基金のデータベースと、定期的に連携している。データ連携の際には、相互運用性を考慮して、ICD-10(国際疾病分類第10版)コード、ATC(解剖治療化学分類法)分類、OMOP(観察医療アウトカムパートナーシップ)マッピングなどの標準規格を採用している。

 加えて、前述の通り、海外民間セクターとの連携については、エストニアバイオバンク・イノベーションセンターが窓口となっている。タルトゥ大学は、2022年11月17日に発足したEU主導の欧州ゲノムデータインフラストラクチャ(GDI)に当初から参画しており(関連情報)、2023年1月6日には、タルトゥ大学およびタルトゥ大学病院を中心とするコンソーシアムが、エストニア政府および欧州委員会の支援金を受けて、国際個別化医療研究開発センター・オブ・エクセレンスを設立することを発表している(関連情報)。

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