DECとともに消えた名機VAX向けRTOS「VAXELN」の栄枯盛衰:リアルタイムOS列伝(47)(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第47回は、DECがかつて提供していたVAXという32ビットミニコンピュータ向けのRTOS「VAXELN」について紹介する。
COMPAQがDEC買収の翌年に売却
もっとも1990年代に入ると、米軍でもCOTS(Commercial Off-The-Shelf:商用製品の軍用利用)が次第に増えて来た関係で、必ずしもAdaを使わなくても利用できるようになってきた。これを受けてVAXELNも軍用以外の用途を拡充すべく、POSIX APIやネットワークサポートの追加(当初からDEC独自のDECnetのサポートはあったが、これにTCP/IPのサポートを追加した)などを施して新たなマーケットの開拓を狙った。ただ、DECはVAXELNのサポートをVAXに限り、VAXの次世代アーキテクチャであるAlphaへのVAXELNの移植を行わなかった(その代わりにDECはVxWorksについてAlphaのサポートを行った)。
理由の一つは、この当時DECはVAXとAlphaに加え、MIPSベースの製品も混在しており、このMIPSベースの製品向けにはDECelx(Ultrixと呼ばれるDEC独自のUNIXにリアルタイム拡張を行う、POSIX準拠のAPIを持ったToolkit)も提供しており、そろそろ製品を絞っていかないといけない時期になっていた(図1)。また、VAXELNの生みの親だったCutler氏も、DECが1980年代後半に進めていたPRISM(Alphaの前身である)というRISCプロセッサの開発中止を巡って上層部と対立し、1988年にDECを退社してしまっている。
それでもVAXが売られる限りはVAXELNも生き延びたのかもしれないが、1998年にDECがCOMPAQに買収された翌年の1999年8月、旧DECの組み込み部門とその製品群はまとめてSMART Modular Technologiesという会社に売却され、VAXELNもこれに含まれることになった。SMART Modular Technologiesそのものはまだ存在する(https://www.smartm.com)が、1999年に一度Solectronに買収され、その後2004年に独立し、2011年にSGH Holdingsとして再出発した上でSMART Modular Technologiesを再び子会社化するといった複雑な動きをしており、しかもその過程でApexData/NEC Do Brasil Memory Module Division/Penguin Computing/Aetesyn Embedded Computing/Inforce Computing/Cree LED/Stratus Technologiesなど多数の会社を買収してラインアップに加えている間に、VAXELNはどこかに消えてしまった。そんなわけで、VAXELNというRTOSは、既に名前だけしか残っていない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 連載記事「リアルタイムOS列伝」バックナンバー
- FDDからブートできる「MenuetOS」とCPUキャッシュにOSが載る「KolibriOS」
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第46回は、フロッピーディスク(FD)1枚にOSとアプリケーション一式が収まる「MenuetOS」と、MenuetOSからフォークした「KolibriOS」について紹介する。 - IBMのメインフレーム向け実験OSが源流の「CapROS」はディスクレスで動作する
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第45回は、IBMのメインフレームであるSystem/370向けに開発された「GNOSIS」を源流に持つ「CapROS」について紹介する。 - MCUとDSPのデュアルモードに対応した先進的RTOS「RTXC Quadros」の末路
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第44回は、MCUとDSPのデュアルモードに対応した先進的RTOS「RTXC Quadros」について紹介する。 - Fiberもどきの「Protothreads」は既存RTOSとの組み合わせで力を発揮する
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第43回は、実装がFiberの一種のようになっている「Protothreads」を取り上げる。 - マイクロソフトにWindows以外のOSは無理?「Azure RTOS」は「Eclipse ThreadX」へ
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第42回は、第4回で紹介した「Azure RTOS」がMicrosoftの手を離れて「Eclipse ThreadX」としてオープンソース化される話題を取り上げる。