水中ドローンが空のドローンとは違う理由と目指す場所:船も「CASE」(3/3 ページ)
国土交通省主催による海域におけるドローンの利活用に関するセミナーが行われた。国交省が沿岸や離島地域の課題解決に向けて進めているAUVやROVを用いた実証実験の報告とともに、日本の沿岸や港湾で、いわゆる“海のドローン”を運用するための現時点での問題点やその解決に向けた取り組みを紹介した。
自治体の取り組みは
山口県 産業技術センター プロジェクト推進部 副部長の山田誠治氏は、水中ドローン関連産業の促進と集積を目指す山口県の取り組みに焦点を当てて紹介した。国の機関の地方移転を契機に岩国市に新設された海洋環境評価サテライトセンターを基点とした山口県独自の実証事業として、県予算による試作開発や実証試験を実施する。また、情報交換の場として技術研究会とワークショップを設け、実際の現場で水中ロボットを使用している専門家と県内の関心を持つ人々との情報交換を通じて産業への参入を促進する取り組みが紹介された。
山口県産業技術センターのプロジェクトでは広範囲のアマモ場をASVに搭載されたソナーを用いた音響調査を通じて、海草の広範囲を安全かつ効率的に計測した。海草は海洋生物にとって重要な役割を果たし炭素固定にも寄与するため、その量的なモニタリングの必要性を訴求している[クリックで拡大] 出所:山口県
静岡商工会議所 産業開発振興機構 技術アドバイザーの佐藤次郎氏からは、海洋産業の振興を目指す団体と協力し、清水港(静岡市清水区)を水中ドローンの実証フィールドとして活用する取り組みが紹介された。この取り組みでは実証実験の成功だけでなく、開発型の企業が清水に集まることも目指している。清水港は港湾施設を有するだけでなく、多くの港湾、海運事業者や漁業者、関連事業者が存在しており、これらが水中ドローンのユーザーになると考えられている。
この実証フィールドでは、開発事業者が清水で潜在的なユーザーとマッチングし、水中ドローンがどこまで使えるかを体験してもらうことも目的としている。さらに、課題を抱えるユーザーと開発企業が協力して新しいROVの開発に取り組み、ユーザーのニーズを反映した製品を開発することで、新しい産業の社会実装を加速させる仕組みの構築も目指しているという。
この清水港における取り組みにはFullDepthの吉賀氏も参加しており、NTTの海中音響無線通信技術を活用した水中ドローンのリアルタイムワイヤレス制御を世界で初めて成功させた実績もある。吉賀氏からは、多数の関係省庁が絡み、事務作業が煩雑な海域利用調整において、清水港では現地コミュニティーが対応したおかげでスムーズに進み、水中ドローンの運用が「劇的に」(吉田氏)やりやすいとの発言もあった。
山口県の実証実験でも、漁業者との調整は県の担当部署が同じ県の関係部署も含めて事前調整に動き、漁業者も県の水産課と連携しながら関係を築けたおかげで、海域利用の調整は難航することなく順調に進んだと山田氏から紹介された。
パネルディスカッションでは、ドローン導入では避けられない「新しい技術への拒否感」についても話し合われた。その解決に向けた提言として吉賀氏からは、潜水士の作業レベルはドローンに比べるまでもなく現時点でも著しく高いとした上で、「レジェントたちがどんどん高齢で引退されている」(吉賀氏)という状況において、人が潜るのに危険がある作業では水中ドローンが代わりに使われていくのが望ましいという考えを示した。
日本水中ドローン協会の大手山氏からは、ROVの運用において直面する法的規制の問題について説明があった。そこでは業務でROVを使用する場合、多岐にわたる許可申請や手続きが必要となることを指摘し、これらは国土交通省や海上保安庁が管轄する法律(例えば港則法や海上衝突予防法など)が定めてあるため、実際の作業現場、特に港では、許可を申請しなければならない場所が多く存在し、これが従来の潜水作業や作業船からROVへの移行を阻害していると訴えている。
大手山氏によると、開発者やユーザーはROVを用いた作業をどこへ申請すればよいか、どのように問い合わせをすればよいかについての明確な指針を求めているが、水中ドローンのみによる点検作業は前例がなく、申請プロセスが一定ではないため、スムーズに進まない場合が多いという。また、一部の省庁では電子メールでの申請を受け入れる一方で、紙ベースでの申請しか受け付けない部署もあり、これも活用促進の障害となっている。
このような状況を踏まえ、大手山氏は法的規制の明確化や申請プロセスの簡略化を関連する省庁に対して要望し、これが新たな産業やサービスの創出に向けた大きな一歩になると述べた。
セミナーではこの他にも実証実験の成果が紹介されている。エイト日本技術開発 技術本部 岡山本店 EJイノベーション技術センター データサイエンスグループリーダーの大本茂之氏は、自律型無人潜水機(AUV)を用いた水質の3次元測定技術の有効性を検証。AUVを用いてDO(溶存酸素量)などの3次元データを取得し、固定化植生における無酸素状態の発生状況を把握した上で、AUVに搭載した高度センサーで水質データや音響画像データなどを収集して詳細な水質情報が提供できることを実証した[クリックで拡大] 出所:エイト日本技術開発
ただ運航できるだけでは足りない水中ドローンオペレータースキル
パネルディスカッションでは、水中ドローン業界を担う人材の育成に関する課題についてもその解決策が話し合われた。基調講演でも人材育成の問題について言及した大手山氏は、水中ドローン操縦の講習者にはライト層が多かったが、現在では業務利用を考えている講習者が8〜9割を占めている状況を紹介。内陸部における貯水槽など設備点検での水中ドローンの利用が増えていることを現在の特徴として挙げている。また、吉賀氏からは、操作方法において空のドローンに準拠することが提言されている(現在の水中ドローンでは初期状態における左右スティックの割り当て操作座標系が空のドローンと逆にアサインされているケースが多いという)。
また、業務に対応できる人材育成という視点では、調査報告書の作成で国の定めるマニュアルに従った検査をして報告書を作成できるレベルのドローンオペレーターの育成も視野に入れることが提言されている。
水中ドローンの存在を社会に広く認知してもらう方法として、エンターテインメントなアプローチが吉賀氏から提案された。そこでは空のドローンと違って海に潜ってしまうと見えなくなる水中ドローンの「姿」を、撮影用ROVを投入してリアルタイムで配信し、一般の方にも見てもらうだけでなく、業務利用でも遠隔地から現場に行かなくても意見が交換できる運用方法を、現在イベント企業と検討しているという。
なお、ドローンの運用における既存海洋法規との調整について、大手山氏は「協会の見解ではなく個人的意見」とした上で、「法整備がされて空のドローンを自由に使うことが難しくなった観点から言うと、水中ドローンに関する法律の制限をあまり求めたくない」と述べている。「法律が整備されてしまうと、ある程度制限をかけなければいけない。問題のある使い方がされるから制限しなければいけないというネガティブな要素も出てくる。理想論かもしれないが、安全に運用ができる人材を育てて、然るべき地域や海域に合わせたルールを守った運用ができる水中ドローンの担い手を育成することが協会の使命と思っている」(大手山氏)
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