倉庫を圧迫する大量の越前漆器 出会いつなぐマーケット開催で表舞台に:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(14)(2/5 ページ)
本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回はモノづくり産地の越前鯖江エリアで、漆器業界の抱える課題解決に挑戦する、越前漆器販売店「漆器久太郎」の曽明富代さんと曽明晴奈さんを取材しました。
漆器業界の抱える課題
漆器業界の分業は大きく分けて、木地、塗り、加飾(絵付け)の3種類の工程から成ります。木地師はろくろを使って木材を削り、漆器の基礎となる木地を作ります。塗り師は下地塗り、外塗りと内塗り、仕上げ塗りなど、漆を塗る場所などによっても分業が行われています。絵付けを担う蒔絵(まきえ)師や沈金(ちんきん)師は、塗りの工程を終えた漆器の上に装飾を施します。
漆器業界は、旅館や割烹などの飲食業と密接な関わりがあります。実際に、越前漆器は、業務用漆器の製造で全国の80%を超えるシェアを持つとも言われています(※)。天然漆器に比べ安価で、電子レンジや食器洗い乾燥機にも使えるという理由から、業務用漆器には合成漆器が選ばれることがほとんどです。市場に出回る漆器の多くが合成漆器であり、また、ライフスタイルの変化によって漆器自体を必要とする機会も減っています。
※出典:伝統工芸士によるマーケティング― 越前漆器の漆琳堂 ―
漆器は、和食や日本の季節ごとの行事と密接に関わってきました。しかし最近では、漆器自体になじみがない方も増えています。漆器を未来に残すためには、昔ながらの作り方や使い方に固執せず、作り手と伝え手が新しい販路や商品を生み出し、発信することが求められています。
曽明漆器店の「一期一会マーケット」とは?
そこで、曽明漆器店では自社倉庫を舞台に不定期で「一期一会マーケット」を開催し、自社倉庫にあるデッドストック(滞留在庫)を販売する他、漆器を使った試飲や試食などを通して、新しい漆器の使い方も提案しています。漆器をあまり使用したことがない人でも、楽しみながら学べる仕掛けがたくさんあります。
一期一会マーケットが生まれるきっかけとなったのは、越前鯖江デザイン経営スクールで取り組んだ、半年間の商品/サービス開発プロジェクトでした。
越前鯖江デザイン経営スクールは2023年、地域の人材育成を目的に、鯖江市と越前市との共催でスタートしました。商品/サービス開発プロジェクトでは、越前鯖江エリアのモノづくり企業とクリエーターたちがタッグを組み、新しい商品やサービスを生み出すことを目指しています。
スクールの一期生として、越前市と鯖江市に拠点を構える、曽明漆器店、沢正眼鏡、小柳箪笥店、越前セラミカの4社がプロジェクトに参加しました。この4社に、福井県内の企業に務める人やクリエイター、プロジェクトマネジャーを志す若者などが仲間入りし、5人前後のチームを作ります。このチームで、企業の持つ課題や強みに着目し、新たなサービスや施策を考案し、実行します。
曽明漆器店のチームには、i.Design Studio(アイ・デザインスタジオ)代表でデザイナーの池田武史(いけだたけし)さん、タラコデザインの宮藤遥香(くどうはるか)さん、OOKABE Creations マーケティング部 企画編集者の早川祐美(はやかわゆみ)さん、会社員の中川晴香(なかがわはるか)さんの4人が参加しました。
チームでは2023年9月からの半年間、オフラインでのミーティングに加え、オンラインミーティングツールなどを活用して議論を重ねました。話し合いは深夜2時まで続くこともあったそうです。
伝統工芸品を扱うモノづくり企業が、新しい仲間としてクリエイターやデザイナーなどを迎え入れ、建設的な話し合いをするためには、企業の歴史や思いを根っこの部分から知ってもらう必要がありました。プロジェクト開始直後は、このような「思い」の伝達にとても苦労されたようです。
では、初めての試みであるプロジェクトから生まれた「一期一会マーケット」は、どのような経緯で誕生し、曽明漆器店のどのような課題を解決したのでしょうか? 曽明漆器店の富代さん、晴奈さんに伺いました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.