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五重塔のアーキテクチャに学べ! 日本の製造業DXの勝ち筋は保守サービスにあり製造業DXプロセス別解説(10)(1/2 ページ)

製造業のバリューチェーンを10のプロセスに分け、DXを進める上で起こりがちな課題と解決へのアプローチを紹介する本連載。第10回は、日本の製造業DXの勝ち筋になり得る「保守サービス」について解説する。

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 前回は、IoT(モノのインターネット)の普及により市場が拡大している「コネクテッド製品」の購入/使用における課題とその解決策について論じた。今回は、日本の製造業DXの勝ち筋になり得る「保守サービス」について解説する。

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図1 本連載で製造業DXに向けたアプローチを解説する10のプロセス。今回は赤色で示した「保守サービス」がテーマとなる[クリックで拡大]

バリューチェーン上で見落とされがちな「保守サービス」の価値

 大量生産、大量消費が当たり前の世の中で、保守サービスの重要性は日本製造業において軽視されてきたのではないか。その背景には、保守サービスは経済的価値を生み出すものとは見なされず、法人としての姿勢の延長程度に考えられてきたことがあり、むしろ犠牲的な位置付けでいかに安く/早く提供できるかに主眼が置かれてきたように思う。

 無論、ひとくくりに日本製造業といってもバリューチェーン上のプロフィットプールは形態や切り口によってさまざまではある。ただ、自動車をはじめとする耐久消費財や、建設機械、輸送機器などの生産財では裾野の広いバリューチェーンとそのマーケットが存在しており、スマイルカーブと呼ばれる設計開発からサービスまでのエンドツーエンドで見た場合、設計開発やサービスで収益性の高いビジネスが行われていることはあまり知られていない。自動車業界ではCASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)に代表されるように、モノ売りからサービス売りへと業界全体がシフトしている中、特にサービス領域での収益性の取り込みは大きな関心事項となっている(図2)。

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図2 「自動車業界におけるプロフィットプールの例」[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 サーキュラーエコノミーやサステナビリティが経営アジェンダとしても注目される中、収益性の高いビジネスモデルの構築は自動車業界だけの変化ではない。ビジネス環境のマクロトレンドに加え、産業/業界における価値の変化、グローバル化/競争激化の波が保守サービスのビジネスへ大きな影響を与えている。今でこそモノが大切に使われ続け、愛され続けることの重要性に再度目が向けられるようになってきたが、日本の製造業では、いざ本領域の改革に取り組もうと思っても、保守サービスに取り組む意義や狙いと価値、そのために何をどうアプローチすれば良いのか手探り状態というのが実態ではないだろうか。

 だが実は、保守サービス領域で世界をリードしていくための勝ち筋のヒントは、ここ日本にあったのである。

宮大工の匠の技が支える世界で最古の企業

 モノがさほど豊かではなかった時代にさかのぼって、われわれ日本人はどのようにモノを大切に使い続け、愛し続けてきたかを見てみたい。「失われた10年」どころではなく、さかのぼること1400有余年、西暦578年創業の世界最古の企業が日本にあることをご存じだろうか。

 この日本企業は、寺院や神社、重要文化財などの新築/修復工事を手掛ける企業だ。なぜこれほど長く企業経営が続けられるのか。そこにはもちろん、1400有余年もの間、宮大工として大切に受け継いできた匠の技もあるだろう。ただ、これだけ地震や暴風、豪雨、豪雪などの自然災害が多い日本で宗教的/思想的なシンボルであり続けるためには匠の技の継承だけではなく、建築初期の段階で優れた「アーキテクチャ」が存在していたことに注目したい。

 「アーキテクチャ」という言葉は、もともと建築における建築様式や工法、構造などを表す言葉を起源とする。現在はビジネスアーキテクチャ、ITアーキテクチャ、サービスアーキテクチャというように多用されるが、要するに実現要求に対して構造的に機能分割し、各機能に振る舞いを割り当てて、それぞれの機能に求められる性能要件を満たす設計を行うことを指す。

 例えば、五重塔のアーキテクチャは、宗教的/思想的意味合いから求められる価値を実現するために、建造物としての機能を大屋根や心柱などの構造物に分割した上で、これら個々の構造物の性能要件を満たすための建築資材や工法、工具まで含めた設計を行うことになる。実現要求(五重塔の例でいうと宗教的/思想的要求)から、匠が使う建築工具や宮大工としての技術まで一貫して成立している状態が、アーキテクチャ定義書などない中で1400有余年もの間ヒトからヒトへ継承されてきたことは畏怖の念すら覚える。

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