マーケターにも技術的知識が必須に マーケティング成功の鍵は「相互理解」:間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(12)(2/2 ページ)
コロナ禍で製造業のマーケティング手法もデジタルシフトが加速した。だが、業界の事情に合わせたデジタルマーケティングを実践できている企業はそう多くない。本連載では「製造業のための正しいデジタルマーケティング知識」を伝えていく。第12回のテーマは「マーケターが技術を理解することの重要性」だ。
どうすればマーケターは技術者と円滑な議論ができるか?
技術者との円滑な対話のためには、マーケターにも一定の技術的知識が求められる。しかし、技術者と同等の知識を有することは現実的に難しいため、重要なポイントに焦点を当てることが肝要である。
コミュニケーションにおいて第一に必要なのは「共通言語」である。技術者が用いる専門用語を把握することが円滑な議論の土台となる。そのためには技術の基礎知識を学ぶことが必要だ。次に「論点の共有」が重要になる。マーケターは市場を基盤に考え、技術者は技術の側面から考察するため、それぞれ視点が異なる。何について話し合うのかを明確にし、議論の要点を共有することが大切だ。この2つのポイントを押さえることで、双方の理解が深まり、効果的な対話が実現できる。
(1)基礎知識を身に付ける
技術の基礎知識の習得はマーケターにとって重要である。その第一歩として基礎物理学の概要を知ることから始めてみよう。学習には高校の教科書や参考書、Web上の情報(WikipediaやYouTubeの解説動画など)が役立つ。また、社内でセミナーがあれば、積極的に参加するとよい。
社内の教育資料の利用も、技術的知識の習得に役立つ。社内資料はマーケターに必要な情報が集約されており、理解できない部分は他の人に質問してもよい。また、理論だけではなく現場を見ることも重要である。工場や研究所の現場を訪れることで、理論が実務にどのように応用されているか、知識の不足や新たな疑問を発見できる。
さらに、自社の技術的な疑問については、技術者に直接確認するのが望ましい。マーケターが技術者に質問する際には、基本的な知識ではなく、自社技術に焦点を当てた質問ができるよう基礎を固めておくことが大切である。
学習の手順をまとめると、参考書で基礎知識の習得をし、社内資料で自社の技術を理解する。次に、現場を訪問したり、技術者に質問したりすることで必要な基礎知識が身に付いていく。
(2)技術の見える化によって議論のポイントを共有する
マーケターが技術者目線を持っていないように、技術者もマーケティング目線を持っていない。職種が同じであれば理解してもらえる部分で意見の相違が生まれ、それ以降の議論が進まないことがある。
議論を円滑に進めるためには、議論のポイントを共有し、目的とゴールの認識を合わせることが大切である。例えば、MFTフレームワーク(※1)を活用して技術の使用方法を明確にできれば、おのずと議論のポイントも絞られてくる。
MFTフレームワークを使えば議論のポイントが明確化できる 出所:テクノポート
※1 MFTフレームワークの「MFT」とは、Market(市場)、Function(機能)、Technology(技術)を指し、市場と技術の間にある機能に着目することで、技術の活用が可能な市場を幅広く検討できるフレームワークである。
また、情報を共有することで、部門間の役割を明確化し、より良いコミュニケーションを促すことにつながる。これにより、全社一丸となってマーケティングに取り組める環境が整っていく。
まとめ
コロナ禍を経て、製造業におけるデジタルマーケティングの重要性は高まっている。しかし、実践している企業は限られており、成功している例はさらに少ない。その問題の1つとして、マーケターと技術者のコミュニケーションギャップがある。
このギャップを埋めるためには、マーケターは技術の基礎知識や、技術の見える化スキルを習得しなければならない。また、企業としてマーケターが技術を、技術者がマーケティングを学べるような環境を提供することも必要となってくる。このような取り組みにより、製造業のデジタルマーケティングはさらなる成果を上げることが期待される。
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筆者紹介
永井満(ながい みつる)
テクノポート株式会社 Webマーケティング事業部 名古屋オフィス責任者
日本大学大学院(航空宇宙工学専攻)を卒業後、新卒で入社したボッシュ株式会社にてディーゼルエンジンの設計職を経験した後、テクノポート株式会社へ入社。現在はWebマーケティングコンサルタントとして、中小企業から大手製造業まで幅広い企業のクライアントを担当。技術の魅力を伝えることにこだわったマーケティング支援を心掛けている。
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