FPGAを革新する「ナノブリッジ」はディープテックの街つくばで育まれる:スタートアップシティーつくばの可能性(5)(1/3 ページ)
筑波研究学園都市としての歴史を背景に持つ茨城県つくば市のスタートアップシティーとしての可能性を探る本連載。第5回は、FPGAの電力性能を大幅に向上させる技術を持つナノブリッジ・セミコンダクターの杉林直彦氏へのインタビューを通して、ディープテックスタートアップとつくばの相性の良さについて見ていこう。
本連載では「ディープテックスタートアップ」に注目してきた。茨城県つくば市には、筑波大学、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や産総研(産業技術総合研究所)などの国立研究機関、さらに民間企業の研究施設も多数存在する。こうした研究施設での研究によって得られた革新的技術を活用して、社会にインパクトを与える事業に取り組むスタートアップは「ディープテック」と呼ばれている。
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画期的な半導体技術「ナノブリッジ」とは
今回紹介するナノブリッジ・セミコンダクター(以下、NBS)は、まさに「ディープテック」の代表的な事例といってもよいだろう。
NBSが扱うのは、ナノブリッジ素子を活用したFPGAの設計/開発事業だ。FPGAとは「Field Programmable Gate Array」の略称で、ユーザーが回路を自由に組みかえることのできる半導体チップを指す。NBSのナノブリッジ技術は、FPGAのポテンシャルを大きく飛躍させると期待されている。
おそらくMONOist読者の皆さんは、筆者よりもFPGAについてよくご存じだろう。MONOistには「新・いまさら聞けないFPGA入門」などのFPGAに関する記事も多く、筆者も参考にさせていただいている。FPGAそのものについての解説などはそれらの記事を参照していただくことにして、ここではナノブリッジ技術の革新性をお伝えしたい。
NBSが提供する「ナノブリッジ」は、半導体の中の金属配線を切り替えられる「原子スイッチ」を搭載している。これにより、高い省電力性能や、放射線耐性などを実現しているのが大きな特徴だ。従来の半導体では回路を切り替えるためのスイッチにトランジスタが使われているが、ナノブリッジは半導体チップ用に最適化されたこの原子スイッチを使う。
原子スイッチの原理はこうだ。極微小なスイッチは、活性電極である銅と不活性電極であるルテニウムによってポリマー固体電解質を挟んだ構造から成っている。スイッチに電圧をかけることで、銅電極から生じた銅原子が固体電解質内を移動して電極の間に架橋を生成したり、その架橋が消滅したりする。架橋がある状態がスイッチON、架橋がなければOFF。銅原子による「ナノ」メートルサイズの「ブリッジ(架橋)」によって切り替わるスイッチが「ナノブリッジ」技術というわけだ。
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