Simulation Governanceの活用カテゴリー「活用場面」の診断結果:シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(7)(2/4 ページ)
連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。引き続き、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていく。連載第7回では、活用カテゴリーの「活用場面」に着目する。
トラブル対応
トラブル対応でCAEが使われるのは今でもよく聞かれますし、それどころか主要な使い方になっているケースも見られます。量産間近や量産に入ってからのトラブルは緊急性が高いのはもちろんですし、その解決策を実験で検討している時間がないか、実験で再現しないという切実な状況である場合が多いのです。いわゆる“火消し”の役割です。
しかし、この場面でCAEを使うには、最低限の現象を再現することから始めて、トラブルの原因を探り、解決策の提案もするというマルチな役割を時間に追われながら行うことになります。「大変」という言葉を通り越して、非常に高ストレスな仕事になるでしょう。
トラブルを解決できれば無駄なコストと時間を回避できるという価値はあるものの、本質的には“不具合”設計を後で発見するということなので、過去トラ(過去トラブル)の一例にしかなりません。その意味で図3では、設計への効果度を★2つにしています。
実験比較検証
次の実験比較検証としての使い方は、量産に入る前に試作/実験をCAEで再現することで、実験では分からない見落とし現象や製造バラツキの影響を確認し、対応することが目的になります。トラブルの事前発見と回避ということです。全体プロセスの中では、量産前のマイルストーンとしての意味以上のものはないので、効果度は★1つにとどめています。
ただし、このフェーズでの製品仕様とCAEモデルの完成度が高ければ、いわゆるデジタルツイン(Digital Twin)が可能となり、バーチャル認証のパスにつなげることができます。これは実験検証ではなく、実験を完全に代替することで製品が正式に認められるということですので、そういう意味での価値は高いといえます。そのことを踏まえ、試作一発への一環と捉えれば、効果度は★3つに変更すべきだと考えます。完成度と目的の問題です。
出図後検証
さらに、出図後検証の場面では、設計仕様通りに作られて性能が出ていることをCAEで検証するのが目的となります。実験比較検証に近い使い方ではありますが、出図直後にほぼ同時に使うことで、土壇場での設計変更に影響を与える余地があります。CADモデルからCAEモデルが瞬時に生成できるプロセスが確立されていれば、短時間で検証サイクルが行えますので、それなりの効果があるといえます。とはいえ、設計に大きな影響を与えるわけではなく、検証にすぎないので効果度は★2つにしています。
ここまでが、Vプロセスの右側に関する内容となります。続いて、バーチャル設計であるところのVプロセスの左側の説明に移ります。
迅速な代替案設計
CAEが設計者の良き道具となって、迅速な代替案設計として活用できれば、設計判断の質とスピードが上がります。これは、とてもCAEらしい有効な活用の仕方だといえます。3D-CAEの一般的な役割はこの場面での活用になります。この場面でCAEが使えない、あるいは成熟していない場合は、どうしても試作に依存せざるを得ないので、開発スピードが上がりません。そのため、ここでの活用がどんなに素晴らしくとも、効果という視点ではそれでもまだ、★3つなのです。
それはなぜか? 連載第1回「Simulation Governanceの背景と成り立ち」の2ページ目に示した“図1 CAE活用レベルのデジタル化3段階”を再度ご覧ください。迅速な代替案設計としての活用は、CAEのDigitizationの完成形ではあれ(その意味では素晴らしい)、それ以上のDigitalization〜Digital Transformation(DX)的な活用には至っていないからです。
手戻りのない基本設計
次の手戻りのない基本設計における活用が、CAEが最高の効果を発揮する場面といえます。“後工程で手戻りが出ない(最小になる)ような基本設計をする”ことができれば――詳細設計ではスムーズに部品設計に移行し、設計通りの性能が予測され、見落としなく相反性能も想定内のバランスに収まり、目標性能が試作で問題なく確認され、量産トラブルに見舞われることなく、いわゆる一発試作で開発が終了する――というベストシナリオの確度が高くなるのです。
仮にどこかで問題が生じても、基本設計時に想定されていた範囲内であれば、対応策や代替案をすぐに提案でき、最小の手戻りで済むことになります。言ってみれば、バーチャルを極めたCAEの使い方を行うことで、一見トラブルに見えても“お釈迦(しゃか)さまの掌”の中で対応できる状況を作ることができるのです。ですから、効果度は最高の★5つとしています。
実は、筆者は“想定設計”というコンセプトのCAE活用方法論を取りまとめ、これまでいくつかの学会論文や学会誌などで発表しています。まさに手戻りのない基本設計のための活用を促進する方法と考えており、機会があればこの想定設計にフォーカスした紹介を試みたいと考えております。
素性の良い構想設計
最後の素性の良い構想設計におけるCAE活用の効果も非常に高いといえますが、この段階ではシミュレーションのモデル精度が低かったり、計算シートでの数値モデルであったり、目標値が定性的で曖昧であったりといったことが多く見られます。そのため、モデル作成の難しさ、定量評価の難しさという実用面での課題を踏まえて、効果度は★4つとしています。
しかし、筆者の経験では、シミュレーターが計算シートではあっても、従来経験では導き得なかった基本的な設計解を探索でき、次期機種に対して新たな設計方針を立てることができたという場面も見てきました。ハマるととてつもない効果が出るのがこの場面です。その際の効果度は★5つだといえますが、先ほど述べたモデル作成と定量評価の面での難しさから、★を1つ減らして4つとしています。
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