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バイオポリエステル/バイオポリアミド複合化材料の設計と合成引き伸ばすほど強度が増す新たなバイオプラ(3)(1/2 ページ)

本連載ではバイオマス由来の2種のプラスチックを組み合わせ開発した、引き伸ばすほど強度が増す透明なフィルム素材を紹介します。今回は、PA4を取り入れた新しいバイオプラスチック材料の開発について説明します。

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 前回までは、プラスチックが引き起こしている社会問題と、期待が寄せられているバイオプラスチックについて、またその中で生分解性ポリアミド4(PA4)が注目される理由について示しました。私が所属する産業技術総合研究所(産総研)のグループ(以下、私たち)では、このPA4を取り入れた新しいバイオプラスチック材料の開発に取り組んでいます。以降では、その成果の一部について紹介します。

 まず、PA4の性質について改めて見てみます。最も特徴的なものはやはりその高い生分解性です。それに加えて、ポリアミドの中でも融点が高く(約270℃)、硬い物性も示すことから、エンジニアリングプラスチックとしての活用が期待されています。

 しかし、分解温度が融点に近く、硬くて脆い性質があるため、加工成形しにくいといった問題があり、今のところ製品化した実例はありません。それどころか、その性能自体もいまだ不明な点が多く、研究段階にあります。PA4を活用するために、私たちは、違う分子構造をもつプラスチックとの複合化に注目しました。異なる2種類のプラスチックを複合化すると、しばしば単独では見られない性能を示すためです。

PA4とPBSそれぞれの特徴やその複合化材料
PA4とPBSそれぞれの特徴やその複合化材料[クリックで拡大]

 組み合わせの相手として検討したのが、バイオポリエステルの1つである、ポリブチレンサクシネート(PBS)です。PBSは、既に50%のバイオマス化が達成されており、技術的には100%バイオマス化も可能と考えられています。また、特定の条件下において生分解性を示すことも知られています。PBSは、強度も高く、柔らかく伸びやすい性質があります。融点は110℃と低く、加工成形性にも優れています。一方で、融点の低さは耐熱性の低下を招きます。加えて、生分解性はあるものの分解速度が低く、分解条件が限定的です。

 このように、PBSとPA4は、互いに大きく異なる性質をもつことが分かります。従って、これらをうまく複合化できれば、両者の欠点を補い合う機能的な材料となると期待できます。ただし、PA4は親水性が高いのに対してPBSは親油性が高く、水と油のような関係にあるため、互いに混ざりあわない問題があります。PA4の成形性の悪さが、混錬をさらに難しくしています。そのため、複合化するには工夫が必要です。

 このような中で、私たちは、PBSとPA4との「マルチブロック共重合体」を設計しました。PBSとPA4はともに高分子ですが、これらを単位ブロックとして化学的に連結し、両者が繰り返した構造を持つのがマルチブロック共重合体の特徴です。このようなマルチブロック共重合体には、以下の利点が考えられます。

 例えば、(1)一定の長さのある高分子構造をもつPBSとPA4のブロックを均等に混ぜ合わせることができる。(2)2つの高分子は水と油の関係にあり、同じ成分で固まろうとするため、両者のプラスチックとしての性質を引き出しやすい。(3)PBSのかたまり(ドメイン)とPA4のドメインがきれいに分散される。(4)ブロックの長さを適宜変えることができ、複合化プラスチックとしての特性を調整できる、などです。PA4の複合化材料はこれまでにもいくつか報告がありますが、マルチブロック共重合体についてはほとんど前例がありません。

マルチブロック共重合体の設計図と想定ミクロ相分離構造
マルチブロック共重合体の設計図と想定ミクロ相分離構[クリックで拡大]

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