1000兆分の1アンペアレベルの微小電流標準の確立へ、産総研とNTTが前進:研究開発の最前線(1/2 ページ)
産総研とNTTは、シリコン量子ドットを用いて電子を1粒ずつ精密に制御して大きさの決まったpA単位の微小電流を発生させることに成功したと発表した。fA(1fAは1000兆分の1A)までを含めた、nA以下の微小な電流を正確に発生、測定するための“微小電流標準”の開発につながる成果となる。
産業技術総合研究所(産総研)と日本電信電話(NTT)は2023年12月20日、シリコン量子ドットを用いて電子を1粒ずつ精密に制御して大きさの決まったpA(1pAは1兆分の1A)単位の微小電流を発生させることに成功したと発表した。pAよりもさらに小さいfA(1fAは1000兆分の1A)までを含めた、nA(1nAは10億分の1A)以下の微小な電流を正確に発生、測定するための“微小電流標準”の開発につながる成果となる。
2019年5月に改訂されたSI単位系において、電流の単位であるA(アンペア)の標準となる電流標準は、量子力学的な現象を用いて実現される「量子ホール抵抗標準」と「ジョセフソン電圧標準」によって値を付けられた抵抗器と電圧源をオームの法則を介して結びつ付けることで実現されるようになっている。この電流標準では、電流値が小さくなっていくに従って「相対不確かさ」が大きくなるという課題がある。特にnA以下の微小電流については、10−3以下の相対不確かさを持った電流標準は現在も実現していないが、医療のための放射線計測や化学のための粒子計測では、高精度計測に必要な微小電流標準の実現が求められている状況だ。
微小電流標準の実現に向けては、電子を1粒ずつ制御できる単一電子素子と呼ばれる微小な素子の活用が検討されている。電流の大きさは「1秒間に流れる電子の数」で決まるが、単一電子素子で電子を正確に1粒ずつ制御し、決まった個数の電子を導体上に流すことができれば、不確かさの小さな電流を実現できるという考え方に基づいている。この単一電子素子を用いた電流標準の研究は、1990年代に提案されて以来、各国の研究者による地道な研究が続けられており、現在では160pAの電流をおよそ10−7の相対不確かさで発生させることが可能になっている。ただし、微小電流標準を実現するためには、使用する素子の違いによらず一定の電流を発生する技術を確立するとともに、相対不確かさが小さい状態で電流値を可変させられる必要がある。これまでの単一電子素子の手法では、これらの課題を解決できていなかった。
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