【最終回】CAEと計測技術を使った振動・騒音対策の総まとめ:CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(21)(3/3 ページ)
“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。最終回となる今回は、これまでの内容を振り返りながら、連載の重要ポイントをおさらいする。
図4の伝達関数G4は、吸音材による伝達関数です。G4の表現は少々難しいので、吸音材を部屋の壁に貼った場合を考えましょう。図10に壁に吸音材を貼ったときの音源からの距離と音圧レベルを示します。Rは吸音力[m2]で吸音材の吸音率が大きいとRも大きくなります。図10のA部に注目してください。音源からの距離が2[m]程度で音圧レベルは音源からの距離に関係なく一定値となります。つまり、部屋の中の音圧レベルは吸音材によって決まります。
伝達関数G4をグラフにするのは難しいのですが、吸音材によって、伝達関数G3が図11のように変化すると解釈できます。低周波で効果が小さいことに注目してください。
図12に音の反射、吸収、透過を示します。壁を通過するときに音は反射しますが、反射が少ないほど吸音率が大きくなり、最大は1[-]です。図12の音波は単位面積当たりを通過する音のエネルギーです。
図4の音の絶縁(遮音)の伝達関数G5を説明します。入力は箱の中の音圧、応答は箱の外の音圧です。音のエネルギーは音圧振幅の二乗に比例します。透過率の逆数をデシベル表示したものが等価損失です。G5の逆数を二乗してデシベル表示をしたものが等価損失です。図13に等価損失を示します。
最後に、伝達関数G6とG7です。図3において、箱から放射される音の直接音と反射音が観測されます。直接音に関する伝達関数はG6、反射音に関する伝達関数はG7です。直接音は「距離減衰」といって離れれば離れるほど小さくなります。次式で表されます。PWMは箱から放射される音のエネルギーをデシベル表示したものです。箱は床の上にあるのでQ=2[-]です。G6については図10の黒い太線で表現できます。
反射音は部屋に壁に貼った吸音材の吸音率で決まります。観測される音は直接音と反射音の和で、図10と同じ形となります。直接音と反射音の和は次式で表されます。
連載の最後に
以上のように、振動対策と騒音対策を全ての段階で伝達関数として捉え、低減対策を立案する考え方を述べてきました。今回のシリーズはこれで終了となります。長期間お付き合いいただきありがとうございました。
またどこかのタイミングで、強度計算に関するCAE解析(有限要素法)について解説したいと思います。20世紀には有限要素法のプログラムを作るための書籍がたくさん出版されました。21世紀になると、ブログラミングではなくCAE解析をいかに上手に使いこなすかに関する書籍が出版されました。CAE解析が3D CADとともに普及した今では、CAE解析結果が出たとき、今ある設計案がそのままで済めばよいのですが、CAE解析結果をよ〜く見ると、設計案にフィードバックをかける必要があることに気付きます。機会があれば、CAE解析結果をよ〜く見て、CAE解析結果を設計実務につなげることに焦点を当てた解説も行いたいと思います。振動と騒音のシミュレーションは今回のシリーズで解説しましたので、今度は応力解析と金属疲労が中心になるでしょうか。またの機会にお会いしましょう! (連載完)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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