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PLMでプロダクト単位の損益を見る、設計と経営をつなぐモノづくりの考え方モノづくり革新のためのPLMと原価企画(6)(1/2 ページ)

本連載では“品質”と“コスト”を両立したモノづくりを実現するDX戦略を解説する。第6回は設計と経営をつなぐ上で必要となる考えと、そのためになぜPLMが必要かを解説する。

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 競争力ある製品を生み出す源泉は「設計力」にある。そして、製品コストの約8割は設計段階で決まってしまう(図1)。特に経営に最も影響を及ぼすのが、設計の上流だ。個別受注企業では見積設計の受注可否判断、企画量産型企業では構想設計の開発についてのGo/NoGo判断がそれに該当する。どちらも、製品から生み出される将来の利益のポテンシャルを決めてしまうからだ。

 しかし、多くの企業でこの領域の改革は進んでいない。営業改革と設計改革のはざまにあるため見落とされがちになる。重要な意思決定を下さなければならないにもかかわらず、Excelでの雑なデータ管理や担当者の勘見積に基づく意思決定が横行している。属人的な設計/見積もりのせいで、明確な根拠による経営判断ができていない現状を再認識する必要がある。


図1:設計段階でコストの8割が決まってしまう[クリックして拡大] 出所:ビジネスエンジニアリング

>>連載「モノづくり革新のためのPLMと原価企画」のバックナンバー

「曖昧な情報」を単に遠ざけないこと

 この問題を解決するためには、「設計と経営」をデジタルでつなぐ改革が急務である。受注可否判断の精度を上げるに当たっては、その判断を支える根拠が最も重要になる。どのような顧客要求だったのか? 要求内容はどの程度未確定だったのか? それに対してどのような前提/仮値で見積設計を行ったか? そこに属人性はなかったのか? などの形で根拠は問われる。こうした応答を眺めると、設計の上流になればなるほど、曖昧かつ属人的で場当たりな業務が遂行されていることが分かるはずだ。

 無論、見積設計で明確な根拠が全て手に入るということはない。大事なことは、どこが曖昧で、どのような前提/仮値に基づいて判断したかの情報を残すことだ。そうすることで、「要求仕様→設計→原価設計→意思決定」という各プロセスの関係性を明確化しやすい。その上で、判断のためのデータで重要になるのは図2のようなものだ。


図2:根拠に基づいた意思決定[クリックして拡大] 出所:ビジネスエンジニアリング

 仕様管理を行うことで、未確定仕様を明確にする。見積設計ナレッジに基づいて属人的なバラバラ設計から脱却して、仮値で進めている部分も根拠として残す。勘見積から脱却するために、根拠となるコストテーブルを用いた原価見積を行う。一方で、先に述べた通り未確定仕様や経験と勘で判断した設計部分、勘見積部分など、どうしても残ってしまう曖昧な部分はある。これらをあえて表に出し、それを踏まえてリスク評価することも重要だ。

 経営者が単に「曖昧なものはダメだ」「未確定なんてもっての外」と言って目くじらを立てるだけだと、担当者は「曖昧なもの」「未確定な情報」を隠したくなってしまう。そうすることで結果、経営者が適切なリスク評価を行えなくなるのだ。

 もちろん、曖昧性を無くす努力は不可欠だ。しかし、そうした「曖昧なもの」を単に視界から追いやるのではなく、むしろ目を向けて、改革していくことも重要なのだ。そのためにも、設計改革やPLM導入によって、仕様管理や見積設計のナレッジ、コストテーブル、リスクを見える化していく必要がある。

 逆に言えば、設計改革やPLM導入の際にはこれらの取り組みを意識すべきだ。どうしても設計改革は、設計のマニアックな領域ばかりに目がいき、経営管理と結び付ける議論が抜けてしまう。またPLM導入も、CADデータ管理やBOM(部品表)管理ばかりに目がいき、仕様管理やナレッジ管理、コストテーブル、受注可否判断の意思決定高度化などの議論が抜けてしまうのだ。ぜひ、設計と経営をつなぐ改革を議論してもらいたい。

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