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Simulation Governanceの構成要素40項目と実現レベルを診断する仕組みシミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(3)(1/3 ページ)

連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。連載第3回は、40項目からなるSimulation Governanceの構成要素を紹介するとともに、実現レベルを自己診断するための仕組みを取り上げる。

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 ダッソー・システムズの工藤啓治です。連載第1回第2回を読まれた皆さまは、「Simulation Governance(シミュレーションガバナンス)」という用語にだいぶ慣れてきたのではないでしょうか?

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 新しいことを行うには何事につけ、「ゴールデンサークル理論」でいわれるように、最初に動機や背景の理解(WHY)が欠かせません。概念と方法論(HOW)を明確にすることで、やることがブレなくなるのです。連載の2回分をWHYとHOWの説明に費やしてきたところで、今回はいよいよ何をやるのか(WHAT)に入っていきます。ずばり、図1のSimulation Governanceの構成図がその詳細になります。

Simulation Governanceの構成図
図1 Simulation Governanceの構成図[クリックで拡大]

 「文化」「技術」「活用」「体制」という4つのカテゴリーの下に2〜3つのサブカテゴリーがあり、それらの下におのおの4〜5つの項目がぶら下がっています。これら総計40項目が、筆者が定義したSimulation Governanceの構成要素となります。この図の9つのサブカテゴリーと40項目名を太字にして表示し、左から右へと読み進めていきます。

カテゴリー1:文化(WHY)

 図1の最も左端に、WHYであるところの文化を配置しました。なぜなら、変革プロジェクトの動機(WHY)は全て、そのプロジェクトを動かしている組織がよって立つ文化に根差して生まれてくるからです。文化を「経営層」と「組織文化」という2つのサブカテゴリーに分けています。さらに、それぞれを構成する要素に分解していきます。

経営層

 まず、経営層の「危機意識」と「ビジョン」なしには、会社はダイナミックに動きません。昨今の変革は全てデジタルなしに語ることはできませんし、シミュレーション技術はデジタルそのものですから、経営層の「デジタルリテラシー」は必須です。経営層が強い「変革リーダーシップ」を持つことも、変革を実行する上で大前提といえるでしょう。

組織文化

 組織文化の視点では、社員の「デジタル成熟度」は、経営層に求められるデジタルリテラシーと同様、変革を受容する基盤として重要です。どの会社でも、「保守文化 vs. 変革文化」の相克はあるわけですが、そうした状況の中でも従来業務の延長である改善と真の変革の違いを明確に理解し、変革文化のベクトルが優位にならなければいけません。「変革プロジェクト」の経験の有無、成果の良しあしも影響してきます。昨今話題のVUCA(Volatility:変動性/Uncertainty:不確実性/Complexity:複雑性/Ambiguity:曖昧性)的世界においては、いかに速く変化し適応できるかの「活動スピード」が死命を制するといってもいいほどです。実際にプロジェクトを推進する際には、旗振りと実行の最前線に、優秀な「変革実行リーダー」が欠かせません。会社はそうした人材の重要性を認識し、育成しているかが問われます。組織文化の5項目が全て変革に直結していることをお分かりいただけるでしょうか。

カテゴリー2:技術(WHAT)

 WHATであるところの技術面については、「モデルと計算」「ノウハウ活用」という2つのサブカテゴリーで説明します。

モデルと計算

 モデルと計算は、シミュレーション技術者が最も力を入れている領域です。特に「プログラム」利用レベルを上げることは、シミュレーションを使いこなすための技術の原点です。解析領域ごとに「モデル化技術」があり、その成熟度次第で計算の品質が決まります。「精度保証と向上」技術は、リアル世界(現物)をバーチャル世界(CAEモデル)で正しく表現するための、すなわちCAEにおけるDigitization(デジタイゼーション)を完成させるためのモデル化技術の根幹要件の一つであり、シミュレーションが世の中に登場して以来の永遠の課題です。関連して、実験が絶対正ではなく、実験条件がばらついている可能性も考慮して「実験との関係」を明確にすることは、正しくシミュレーションを活用するための基本的な振る舞いといえます。モデル規模と計算回数を意識しながら必要なスループットを確保するためには、「計算時間と計算資源(リソース)」を常に検討し、適切な増強計画を立てておかなくてはなりません。

ノウハウ活用

 ノウハウ活用の領域で見ますと、解析テーマごとの「モデル標準化〜共有化」を進めることは、属人化ノウハウを排除していくための必須事項となります。さらに、シミュレーションを実行するさまざまな「手順標準化〜自動化」へと進展させることで、ルーティンワークをさらに効率化し、かつ人為的ミスを排除し、シミュレーションの業務品質を上げることが可能となります。そうした標準化活動の継続こそが難しい点でもあり、組織として標準化活動が定着するか否かは、継続にかかっています。解析結果の評価値と判断根拠を明確にすれば、高度で属人的と思われがちな「判断ノウハウの定量化」も進めることができ、判断に踏み込んだレベルでの自動化プロセスを確立できるでしょう。

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