騒音低減技術の基本「遮音」と「吸音」を理解する 〜吸音について〜:CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(17)(2/6 ページ)
“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第17回では、騒音低減技術の基本である「遮音」と「吸音」のうち、吸音について詳しく取り上げる。
吸音
遮音性能の測定では、測定室の吸音に関する情報が必要となるため、先に吸音について取り上げます。
騒音対策素材の遮音材と吸音材の性能測定のためには、拡散音場が必要になります。拡散音場とは、部屋の中の音のエネルギーがどの場所でも等しく、かつ音があらゆる方向に飛び交っている状態です。騒音計で測ろうとすると、どの場所でも同じ音圧レベルで、音響インテンシティ測定器を持ってくると、左から右に伝播(でんぱ)する音のエネルギーと右から左に伝播する音のエネルギーが等しいため、音響インテンシティ値はゼロになるはずです。しかし、実際にこのような音場を作るのは難しく、音圧レベルは場所によって異なる値となるため、JIS規格(参考文献[1])では「5本のマイクロフォンを使うか、マイクロフォンを移動させる」と規定されています。リアル世界で拡散音場を作るのが困難なように、シミュレーションでも拡散音場を作るのは難しいため、サンプル点をたくさん取ってその平均値を求めることになります。
無響室は静かです。そして、壁、天井、床には吸音材が敷き詰められています。床も吸音材なので宙に浮いた網状の床の上で作業します。つまり、部屋を静かにするためには“壁に吸音材を貼る”必要があり、これが騒音対策手段となります。吸音材の性能は式4の吸音率で数値化します。吸音率には「垂直入射吸音率」と「ランダム入射吸音率」があります。
垂直入射吸音率は、壁に垂直に音波を当てて測定します(参考文献[1])。動画1に、壁に垂直に進む入射波とその反射波を示します。観測される音波はその和なので動画2のようになり、波の進行がない定在波となります。
動画2において、音圧の腹と節があり、節の音圧は完全にキャンセルされずにゼロとはなりません。腹と節の位置の音圧を測定し、次式で垂直入射吸音率αを求めます(参考文献[1])。JISの計算式は直観的に分かりづらかったので、参考文献[3]の式を引用しました(式3)。
ランダム入射吸音率の測定は、動画1のような簡単な試験装置ではなくなります。部屋の中を拡散音場にして残響室で測定します。この方法による吸音率は「残響室法吸音率」と呼び、ランダム入射吸音率に相当するものです。拡散音場を作る残響室はいろいろな形態がありますが、筆者が学生のときにある重工メーカーに見学に行った際に見たものを図3に示します。壁が5面あるコンクリートの部屋でした。
残響室内で拡散音場を発生させて、音源の出力を止めて残響時間を測定します。試料の等価吸音面積(吸音力)Aは次式で計算します(参考文献[2])。
試料の残響室法吸音率αは次式で求めます。
参考文献:
- [1]日本規格協会|音響管による吸音率及びインピーダンスの測定|JIS A 1405(2007)
- [2]日本規格協会|残響室法吸音率の測定方法|JIS A 1409(1998)
- [3]小橋豊|基礎物理学選書4 音と音波|裳華房(S62)
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