DXとGXで先行する北欧の医療“SX”イノベーション:海外医療技術トレンド(100)(2/4 ページ)
本連載第32回、第45回、第51回、第57回、第90回で北欧諸国のデータ駆動型デジタルヘルス施策を取り上げてきたが、今回は医療に焦点を当てる。
持続可能な医療をけん引する技術イノベーションへの期待
次に「より広い視点」では、持続可能性がさまざまな視点をカバーしており、アクターに対して、幅広い領域で同時並行的に作業することが求められる点を強調している。例えば、1つの視点だけに焦点を当てる病院は、本当の意味での持続可能性があるとは限らないとしている。
また、複数の製品やサービスを比較して、どれが最高の環境パフォーマンスを示すかを判断するのは困難なケースが多いことから、病院内のパフォーマンスにとどまらず、ライフサイクル全体を通して捉える必要があるとしている。特に、より多くの医療機関が、ライフサイクル全体におけるサプライヤーの透明性に関して厳格な要求を示すようになっていることを踏まえて、以下のような視点を挙げている。
- 循環型医療は可能か?
- 全てにおいて上位5%か?
- 持続可能な座席か、それとも単なる“椅子”か?
- 病院サプライチェーンにおけるプラスチックの削減
「周辺都市とのシナジーの創出」では、北欧の医療機関の特徴として、周辺都市およびその中で活動するアクターに提供する広範囲なソリューションエコシステムを構成する点を挙げている。具体的事例として、廃水処理(例:スウェーデン・リンシェーピング)、地域暖房(例:ノルウェー・ハウケラン大学病院)、地域冷房(例:デンマーク・新オルボー大学病院)、公共交通(例:スウェーデン・ウプサラ地域)を挙げている。医療産業と周辺都市とのシナジー効果は、スマートシティーの持続可能性に直結するテーマであり、地域の医療機関とサプライチェーンでつながる医療機器・医薬品企業への影響も大きい。
「イノベーティブなアクター」では、北欧の主要な大規模病院に技術的イノベーション部門があり、国家レベルおよび欧州連合(EU)レベルで、持続可能性パフォーマンス向上に関連するプロジェクトに関与してきた歴史に触れた上で、以下のような事例を紹介している。
- イノベーティブな調達:(例)スウェーデン、スコーレ地域
- 越境イノベーション:(例)フィンランドの健康、ウェルビーイング領域
- グリーンイノベーションによる血液分析の促進:(例)南デンマーク大学/オーデンセ大学病院、HealthDroneプロジェクト
- アイスランド産タラの魚皮による傷の治療:(例)アイスランド企業ケレシス
「将来のイノベーション領域」では、表1に示す通り、医療セクターをターゲットとする有望なイノベーション領域およびその事例を挙げている。
表1 持続可能な医療における将来のイノベーション領域[クリックで拡大] 出所:The Nordic Council and the Nordic Council of Ministers 「Nordic Sustainable Healthcare」(2019年8月27日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成
医療の持続可能性を支えるICT/データプラットフォームのビルディングブロックとして、デジタルヘルスや医療機器、MedTechが、個々のイノベーション領域を横串にする形で関わってくることになる。
「GreenTechの訪問先」では、北欧における持続可能な医療ソリューションの視察先として、表2に示すような施設の事例を挙げている。
ソリューション | ショーケース |
---|---|
新たな革新的で持続可能な病院建築物の設計 | カロリンスカ大学病院(スウェーデン) タンペレ中央病院(フィンランド) 新ノース・ジーランド病院(デンマーク) |
病院向けエネルギーソリューション | キルケネス病院(ノルウェー) アイスランド国立大学病院(アイスランド) スカラボリ病院(スウェーデン) |
廃棄物管理 | ペルソネット健康福祉センターノルウェー) オーフス大学病院(デンマーク) オスロ大学病院(ノルウェー) |
排水処理 | ヘアレウ病院(デンマーク) テクニスカ・ヴァルケン・リンシェーピング(スウェーデン) |
表2 北欧における持続可能な医療のショーケース 出所:The Nordic Council and the Nordic Council of Ministers 「Nordic Sustainable Healthcare」(2019年8月27日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成 |
この報告書は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大期前に発行されたものだが、世界的なパンデミックを経て、各医療機関/組織がどのように対応していったのか注目される。ノルディックイノベーションが2023年10月10日に公表した「北欧のHealth Techに関する投資家のアプローチと視点」(関連情報)によると、2019年以降の北欧Health Techへの投資は、総額約70億米ドルに達しており、コロナ禍前のレベルと比較すると92%増加しているという。DX環境の整備やデータ利活用で先行してきた北欧の医療が、GXでどのように進化していくのか楽しみだ。
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