技術ありきで生成AIは導入しない、日立が見据える「DX2周目」の堅実な戦い方:製造業×生成AI インタビュー(2/3 ページ)
大手企業を中心に進む「生成AI」の導入。一方で「技術ありきの改革」に陥らないようにするにはどうすればよいのか。日立製作所の吉田順氏に、同社の生成AI活用の現状と併せて尋ねた。
膨大なドキュメントが生成AIで強みに?
生成AIは日立が手掛けるシステム開発の在り方も変える可能性がある。同社はかねてソースコードの作成や品質管理といったプロセスを、デジタル技術を用いて支援してきた。生成AIの活用によってサポートの範囲拡大と高度化が実現し、要件定義、システムの基本設計、各種ドキュメント作成などの自動化や、生成AIによるプログラム開発の支援サービスなどを用いたソースコードの自動生成が実現するかもしれない。
日立は2027年までにシステム開発の生産性を約3割向上させることを目標にしている。そのためにも、既存の支援技術と生成AIの組み合わせなどに関する技術検証を進めているという。
システム開発における生成AI活用という観点に立った時、吉田氏が日立の強みとして挙げるものの1つが、これまで蓄積してきたドキュメントの多さだ。日立にはこれまで手掛けてきた設備機器や家電などのシステム開発で作成したソースコードに加えて、保守対応マニュアルやインシデント対応時の状況を記録したドキュメントが大量に蓄積されている。
「当然、海外企業も人材の流動性の高さからさまざまなドキュメントを蓄積しているが、以前はグローバルのメンバーから『日本ではなぜそんなにドキュメントを残しているのか』と不思議がられる状況だった。これらのテキストを生成AIと組み合わせることで、顧客に新たな価値を提供していけるようになる。日本企業の『残す』文化が、生成AI活用で強みに変わるのではないか」(吉田氏)
だが課題もある。その1つが、生成AIの出力結果が必ずしも安定しておらず、時に不正確な情報を含むことさえあることだ。ソースコードを生成させた場合、当然、専門エンジニアによるチェックは欠かせないものとなる。しかし吉田氏は、「こうしたフィードバック体制を整備したとして、では自動生成を使わない場合と比べてどのくらい業務を効率化できるのかなど、まだ分からないところが多い。最近ではプロンプトに応じてコードを自動生成する生成AIのデモを社内外で見かける機会も多いが、精度の安定性などが不透明で、社内で議論している最中だ」と説明する。
日立のプロダクトの多くはミッションクリティカルな運用を求められる。このため生成AIの出力の不安定さという問題を前にして、より慎重な判断が求められている面もある。生成AIが開発したソースコードの著作権に関する問題などもあり、クリアにすべき点は多く残されている。
日立グループ全体で生成AIの国内外情報を共有
生成AIに関する社外向けの取り組みとしては、生成AIの安全な利用環境/ガバナンス構築を支援する「生成AIコンサルティングサービス」などがある。現在、同サービスには金融機関を中心に、製造や流通、小売り、電力や鉄道などさまざまな業界から、既存顧客を含めて200件以上の問い合わせが寄せられており、吉田氏は「手応えを感じている」と語った。
導入のトライアルも進んでおり、特に、生成AIにデータベース化した社内データを連携させて検索するシステムの案件が目立つという。障壁となっているのがデータの適切な加工処理だ。社内データにはテキストだけでなく図表や画像データが多く含まれているため、これらを生成AIで読み込める形式に整形した上で、適切な検索結果が返ってくるかを検証する必要があり、この点に関する相談が多いようだ。
日立グループはこれまでにもデジタルソリューション群「Lumada」の事業の中で、データドリブンの改革を重視し、AIを中核に据えて顧客の競争力を高めるソリューションを展開してきた。吉田氏は「Lumada事業で蓄積されてきた約1300件のユースケースから得たノウハウと約200件のソリューションに、生成AIを組み合わせることで、さらに新たな付加価値を提供できるようになる」と説明する。
こうした動きを国内だけでなく、国外のグループ企業とも協調しながら海外動向も注視しつつ進めているようだ。北米を拠点とする日立ヴァンタラや日立デジタル、グローバルロジック(GlobalLogic)に加えて、グローバルのR&D(研究開発)チームなどとも、各国の生成AIに関する規制動向や顧客ニーズの情報を共有し合っている。
中でもグローバルロジックは、「ここ数年で日立グループ各社や各事業セクターと事業的にシナジーを生みつつあり、生成AIへの関心度も高い」(吉田氏)という。同社が日立グループ企業と協調しつつ顧客のDXの取り組みにより深く入り込んで生成AIを活用すれば、より大きな変革の効果が期待できるかもしれない。他の日立グループ企業でも、日立エナジーや日立レールなどのグローバル拠点などがこうした動きに参加しつつある。
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