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ボールねじを使った1軸リニアアクチュエーターの性能向上CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(15)(2/6 ページ)

“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第15回では、ボールねじを使った1軸リニアアクチュエーターの性能向上について考える。

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1軸アクチュエーターのゲインと応答の関係

 図3の1軸アクチュエーターをサーボモーターで動かす場合を考えます。現在位置を測定する手段が必要です。図5のようなものが考えられます。

1軸アクチュエーター
図5 1軸アクチュエーター[クリックで拡大]

 図5の左側はロータリーエンコーダーを使うもので、モーターの回転量を測定します。図5の右側はリニアスケールを使うもので、制御対象の目標であるステージの位置を直接測定します。前者を「セミクローズドループ」、後者を「フルクローズドループ」と呼びます。両者一長一短がありますが、ロータリーエンコーダーとモーターがセットになってサーボパックとして市販されているため、ロータリーエンコーダーを使う場合が多いようです。リニアスケールを使う場合も位置情報はパルス信号になりますが、これを市販のサーボパックに入力して使います。

 ここでは、セミクローズドループで考察をしていきます。図6のようなシステムを考えます。OpenMdelicaであれば、図6のモデルと同じブロック線図をソフト上で配置してシミュレートできます。よって、OpenMdelicaの計算結果を使っていきます。

セミクローズドループのフィードバック系
図6 セミクローズドループのフィードバック系[クリックで拡大]

 図7にOpenModelicaのモデルを示します。ボールねじはなく、質量1[kg]のmassに力を加えているようなモデルです。ゲインが2つありますが、G1以外は1[-]としています。

OpenModelicaのモデル
図7 OpenModelicaのモデル[クリックで拡大]

 図6において、ロータリーエンコーダーでモーターの回転量を測定します。この信号を2つに分けて、1つを微分して速度信号に変換します。モーターに直接「この速度で回ってください」との信号を与えることはできません。モーターに与えられる信号はトルク信号、つまり電流値です。よって、フィードバックは2重ループになっています。内側のループはモーターを所望の速度で回転させるためのもの、外側のループはボールねじの回転位置を所望の回転位置にさせるためのものとなります。

 グラフを使ってフィードバック系の動作を説明します。図8は目標位置、現在位置、目標位置と現在位置の差(図6のE点の信号値)の時間変化を示します。

変位の時間変化
図8 変位の時間変化[クリックで拡大]

 時刻0[s]であるA点に注目します。目標位置は1[-]ですが、現在位置はまだ動かしていないため0[-]で、目標位置と現在位置の差は1[-]です。時刻12[s]あたりのB点に注目します。目標位置は、現在位置共に1[-]で、目標位置と現在位置の差は0[-]となり位置決め完了です。

 速度とモータートルク信号の時間変化を図9に示します。目標位置と現在位置の差にゲインを乗じたものを速度目標とします。ここでのゲインは0.3[-]ですね。時刻0[s]である図9のA点に注目します。速度目標(赤線グラフ)は0.3[-]ですが、始まったばかりなので実際の速度(緑線グラフ)は0[-]です。図6の内側のループにおいて、速度目標と実際の速度の差にゲインG2を乗じたものをトルク信号(オレンジ色グラフ)とします。図9のA点では速度目標と実際の速度の差が最大なのでトルク信号も最大となっています。トルクが発生しているのでモーターは加速を始めます。

速度とトルクの時間変化
図9 速度とトルクの時間変化[クリックで拡大]

 図9のC点に注目します。速度目標と実際の速度が一致しましたのでトルク信号はゼロとなります。いずれブレーキをかけて止める必要があるため、いつまでもトルクを発生させるわけにはいかないですね。続いて、図9のD点に注目します、速度目標より実際の速度が上回っているため減速しなければなりません。トルク信号はマイナス値となっており、ブレーキがかかっています。そして、図9のB点では目標位置に到達したので、速度とトルクはゼロになっています。フィードバック系の良い点は、ゲインをいいかげんに決めただけでも位置決めができるところです。

 ゲインを上げれば動作がキビキビすると期待されます。ゲインG1を大きくしていったときの位置の時間変化を図10の左図に示します。ゲインを上げると位置決めに要する時間が減っていきます。では、さらにゲインを大きくしましょう。これを図10の右図に示します。オーバーシュートが発生しています。ゲインを上げていっても位置決め精度の時間短縮には限界があり、この場合は10[s]くらいとなりました。ゲインを上げることには限界があります。次に、何がゲイン増加の限界を決めているか調べましょう。

ゲインを上げたときの位置の時間変化
図10 ゲインを上げたときの位置の時間変化[クリックで拡大]

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