検索
連載

覚悟を決めて値段を2倍に、「越前打刃物」の柄を蒔絵でモダンに彩る夫妻の挑戦ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(8)(5/7 ページ)

本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は越前打刃物の柄を製造している山謙木工所さんを取材しました。

Share
Tweet
LINE
Hatena

柄づくりだけではない会社へ

――卓哉さんが今抱えている課題があれば教えてください。

卓哉さん 木工というのはもうからない商売であることが本当に多いんです。木工所というのは、どの産業にしてもピラミッド構造の最下層であることが多く、どこも利益の恩恵を受けるのが難しいのではないかなと思います。

 また、全国的に木工の機械メーカーの廃業が相次いでおり、「昔と同じ機械を作ってください」というオーダーができず、今新しい機械を導入しようとすると、フルオーダーメイドに近い作り方になることが多いです。その結果、一気に価格が跳ね上がり、新しい機械を導入することが難しくなっています。小まめにメンテナンスしながら大事に使っていますが、今後のことを考えると不安もありますね。


作業場の様子[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞

――現在作られている木工機械と、昔作られていた木工機械には違いはありますか?

卓哉さん 今の機械は軽量に作られていることが多い半面、昔の機械はずっしりと重いんです。素材や製造方法の工夫で軽くなっていて良い面もありますが、私は昔の機械の重みが良いなと思います。特に「名機」と呼ばれる昔の機械は、鋳造で作られていてかなり重いですが、その分、高い精度で加工できます。そのような機械は今はあまりないと感じます。

――今後、卓哉さんが挑戦したいこと、取り組みたいことはありますか?

卓哉さん 若手スタッフを採用したいと考えています。現在、会社としては柄しか作っていませんが、定時後に自分の好きなものを作っているメンバーがいるんです。そういう方が他にもいるんじゃないかと思うんです。もし何か作りたいものがあるなら、包丁の柄以外のモノづくりにもチャレンジする環境を作り、それがモチベーションの1つになり「仕事って楽しい」と思ってもらえるような会社にしたいです。

「生活の中で使える」美術に興味

――大学では漆芸を専攻していたとのことですが、漆に興味を持ったきっかけを教えてください。

由麻さん 美術系の高校に進学し、進路について悩んでいる時に、地元にある資生堂アートハウスという美術館で、工芸作品を目にしました。資生堂は1975〜1995年にかけて「現代工芸展」という展覧会を開催していたため、素晴らしい収蔵品がたくさん展示されています。当時高校生だった私は、そうとは知らずに見に行きました。

 それまでは、“美術=見るもの”というイメージがありましたが、そこに展示されている作品は“生活の中で使うことのできるきれいなもの”が多くて、それがすごくいいなと思ったんです。中でも、油絵をやっていた経験から色に興味があり、漆工芸に使われている色がきれいだなと感じ、興味を持ちました。


山本由麻さん 出所:ものづくり新聞

――なるほど。大学では具体的にどのようなことをされていましたか?

由麻さん 自分自身が表現者となり、木地づくりから漆塗りまで、漆工芸を一通りやりました。蒔絵の授業もあり、蒔絵の基礎的な部分を学びました。

――在学中に福井に来て、この土地の魅力に気付いたそうですが、福井を訪れたきっかけは何ですか?

由麻さん 大学3年生に進級する前の春休みに、「伝統工芸職人塾」のチラシを見て、福井県で伝統工芸のインターンを募集していることを知り、参加したことがきっかけです。この取り組みは今でも実施されていて、短期と長期で募集があります。私は1カ月間、福井県鯖江市に滞在していました。

――その時はどんな仕事をされたのですか?

由麻さん 仕事をする以上は少しでもできるものをと思い、漆塗りの仕事を選びました。最初に県に電話で問い合わせた時に「漆塗りと言っても、角物と丸物がありますが、どちらがいいですか?」といわれて、「そんなに細かく分かれているんだ……」と軽いカルチャーショックを受けました。結果的には、お椀などを塗っている丸物の塗師屋さんにお世話になりました。

――やってみていかがでしたか?

由麻さん 仕事としては本当に大したことはできませんでしたが、たくさんのことを教えていただきました。初めての福井/鯖江だし、初めての職人の街に暮らすことができて、すごく楽しい1カ月間でした。教えていただいた塗師屋さんがとても良い方で、卒業後に移住してからも本当にお世話になりました。

――1カ月のインターンが終わり、その時には鯖江で働こうと考えていたのですか?

由麻さん その1カ月で住んでいた鯖江市河和田地区がものすごく気に入って、その後も夏休みに1カ月くらい河和田に行き、農家民宿のおばちゃんと仲良くなって、何をするわけでもなく過ごしていました。そして、冬休みも河和田に来て……。若さなのか謎の自信があって、どっかの誰かに拾ってもらえるんじゃないかと思っていたんです(笑)。

由麻さん でも、実際にはそんなことなくて、どうしようってなった時に、河和田でよくお世話になっていた塗師屋さんが快く受け入れてくれて、ひとまずはそこに入りました。その後、その塗師屋さんに私の親方である辻漆器店さん(塗師兼問屋)、田村一舟さん(蒔絵師)を紹介していただきました。辻さんには、製品としての漆器の強度や、使い手のことを考えたモノづくり、業界の慣習など、本当に大切なことを教わりました。

――何度か訪問するうちに、鯖江市河和田地区に馴染んでいたのですね。

由麻さん そうですね。移住前から河和田の方々との人間関係ができていたので、知らない土地で何も分からなくて困ったということはありませんでした。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る