もはや電力線通信にとどまらないHD-PLC、パナソニックがNessumにブランド変更:製造業IoT(1/2 ページ)
パナソニック ホールディングスは、これまで高速電力線通信技術として展開してきた「HD-PLC」のブランド名を「Nessum(ネッサム)」に変更すると発表した。
パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)は2023年9月7日、オンラインで会見を開き、これまで高速電力線通信技術として展開してきた「HD-PLC」のブランド名を「Nessum(ネッサム)」に変更すると発表した。2000年から電力線を用いた住宅向けの高速有線通信技術として開発が進められてきたHD-PLCだが、足元では通信媒体として電力線だけでなく同軸線や専用線など既設線の活用が進みつつあり、さらに基礎技術である通信方式「Wavelet OFDM」の近距離無線通信技術としての応用も期待されるなど、PLC(Power Line Communication、電力線通信)の領域を超えつつあることからブランド変更を決めた。HD-PLCは、2006年の商用化から累計で約450万台のデバイスを出荷しているが、Nessumへのブランド変更により電力線通信にとどまらない展開を推し進めることで、約10倍となる4500万台の規模を視野に採用拡大を進めていく方針である。
Nessumは、有線通信規格の「Nessum WIRE」と近距離無線通信規格の「Nessum AIR」から構成されている。Nessum WIREは、電力線の他、同軸ケーブルや空調信号線、インターフォンケーブル、電話線などの既設線を用いて最大数十Mbpsの通信速度でIP通信を行える。マルチホップ機能による最大数kmの長距離通信を特徴とするなど、機能としては現行のHD-PLCとほぼ変わらない。
一方、Nessum AIRは、2021年11月にパナソニックが発表した近距離無線通信技術「PaWalet Link」がベースになっており、通信範囲を数cm〜1mまで制御可能であるとともに、通信速度が最大100Mbpsと比較的高速なことを特徴としている。
パナソニックHD 執行役員 グループCTOの小川立夫氏は「高速電力線通信として誕生したHD-PLCだが、既にメタル線や無線などでも使われ始めており“電力線通信”という言葉と実態が合っていない。また、工場の制御機器で用いられているPLC(Programmable Logic Controller)と混乱することもあった。そこで、これまでのイメージを刷新し、社会の隅々まで通信をはり巡らして、IoT(モノのインターネット)社会の隙間を埋めてくらしと産業を豊かにする画竜点睛の通信規格として提案していきたい」と語る。
今回のHD-PLCからNessumへのブランド名変更は、IEEE(米国電気電子学会)標準規格協会の次世代通信規格「IEEE P1901c」の作業部会で、Wavelet OFDM方式をベースとする技術がドラフト1.0として2023年8月に承認されたことが起点となっている。IEEE P1901cは、これまでHD-PLCの標準規格としてIEEE 1901シリーズの最新規格であり、Wavelet OFDM方式をさまざまな通信媒体(Any Media:有線、無線、海中含む)で利用できるようにすることを目的として策定されている。2019年3月承認のIEEE 1901a、2021年1月承認のIEEE 1901bに次いで、今後IEEE 1901cとして承認される見込みだ。
2007年に発足した標準化団体のHD-PLCアライアンスについては、現時点でNessumに合わせた名称変更を行うことは決まっていない。「当社はHD-PLC/Nessumの基礎技術を開発しているものの、あくまでアライアンスの一会員企業だ。当社がブランド名変更することは他会員企業に周知しているが、アライアンス名称の変更などはアライアンスとして決議することになる」(パナソニックHD 事業開発室 IoT PLCプロジェクト 総括担当の荒巻道昌氏)という。
なお、Nessumの名称は特定の言葉に由来しておらず、パナソニックHDのデザイン部門などと連携して発音や耳ざわりのよさなどから決定したとしている。
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