技術PRのために最適なWeb戦略は何か、「アンゾフの成長マトリクス」で確認を:間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(7)(2/2 ページ)
コロナ禍で製造業のマーケティング手法もデジタルシフトが加速した。だが、業界の事情に合わせたデジタルマーケティングを実践できている企業はそう多くない。本連載では「製造業のための正しいデジタルマーケティング知識」を伝えていく。第7回のテーマは有名な分析フレームワーク、「アンゾフの成長マトリクス」の活用法だ。
「新規市場×既存技術」で取るべき戦略
自社の保有する資源を生かし、新しい市場を開拓する戦略だ。具体的には以下のようなケースが考えられる。
(1)海外市場開拓
これは新しい市場として、海外企業をターゲットとして顧客を獲得するという戦略だ。
例えば、金属薄板の精密エッチング加工を手掛ける株式会社メルテックは海外をターゲットとし、英語サイトにてSEOを中心としたPRによって、国内に拠点を置きながら海外顧客を獲得している。
国内での需要が停滞しつつある現状、海外に視野を向ける国内の中小企業は増加するだろう。しかし、海外を相手にする場合、的確なターゲットに明確な提供価値を提示できなければユーザーを獲得することは難しい。なぜなら、ユーザーは明確な理由がないかぎり、わざわざ手間をかけて海外企業に発注しないからだ。顧客獲得のハードルは高いものの、大きな市場規模という魅力がある。
(2)製造業界以外の市場開拓
製造業以外の市場に目を向け、自社の技術が生かせる顧客を開拓していく。
非鉄金属鋼材販売を手掛ける株式会社富士産業は、切断、曲げなどの2次加工により付加価値をつけた製品提供を行っている会社だ。自社の加工ネットワークを生かし、設計事務所やデザイン会社にターゲットを設定し、製作金物をデザイン段階から支援することで成功を収めている。自社の保有する資源を見極め、新しい市場のユーザーのニーズに合致させる、シーズアウトとマーケットインを組み合わせた良い事例だ。
(3)他工法からの切り替え
自社の加工方法は、既存市場で受託する加工以外に、他の加工方法からの代替の手段になる可能性がある。切り替えの可能性のある製品や課題となる点を見つけ出し、顧客を獲得する。金属から樹脂への切り替えや、切削からプレスへの切り替えなどさまざまだ。
株式会社武杉製作所はロストワックスによる精密鋳造を行う会社だ。プレス板金や切削加工で行っていたものを切り替えることで、コストメリットが出せる可能性がある。そのような可能性を訴求することで、案件を獲得している。モノづくりの企業は自社の技術は深く知っていても、類似技術に関する知識はほとんど知らないことも多い。
しかし、ユーザーの最適なモノづくりを実現するためには自社の加工方法だけでなく、比較検討のできる他工法についても知識も必要だ。VA(価値分析)/VE(価値工学)の提案が求められていることからも、深く特化した専門知識と水平的な横展開の知識が必要になってきているといえる。
「既存市場×新技術」で取るべき戦略
既存市場に対して新しい技術やサービスを提供する戦略だ。以下の2つが考えられる。
(1)提供サービスの範囲拡大
既存市場に対して新しいサービスを提供する戦略だ。しかし、受託加工を行っている会社にとっては新サービス、といってもピンとこないかもしれない。例えば、製品が出来上がるまでの価値連鎖を作り、自社のサービス提供領域を把握して、その前後や横に広げる余地がないかを考えてみる。これによって、新たな価値提供を模索できるようになる。
荒川技研株式会社は試作を専門とした樹脂切削会社だ。樹脂試作市場で求められる加工の選択肢は、自社の切削だけでなく、注型や光造形など他の方法も存在する。そこで、最適な加工方法での製品提供を行うために協力工場と連携し、サービス範囲を光造形や注型も含めた領域に広げることでユーザーのニーズに応えることを可能にしている。
ユーザーの製品づくりにおける価値連鎖を想定し、どの部分で自社が価値を提供するかを組み立てることが重要だ。試作だけでなく、後工程の量産段階も提供できるようにすべきか、組み立てや塗装も伸ばしていくべきか、前工程のデザイン設計領域も行うべきかなど、次の成長戦略を構築する上での検討材料となる。
(2)B2B向け製品開発
自社の所属する業界に対して提供できるサービスや製品を作る方法だ。自社が欲しいと思えるような課題解決製品は、同業者にも愛される製品ができる可能性がある。
株式会社エステーリンクは板金加工業者による、板金加工業者のためのバリ取り機械を開発する企業だ。現場を熟知しているからこそ本当に必要な製品が作れる。実際に購入した顧客の評判もよく、非常に効果的な製品開発を行って成果が表れている。
「新市場×新技術」で取るべき戦略
新しい市場に新しい技術で取り組む事業だ。一般消費者向けの製品開発もこれに属し、非常に魅力的な取り組みではあるが、不確定要素が多く、販売促進の難易度も高いため、成功パターンがまだ体系化できていない領域だ。
まとめ
WebにおけるPRの良いところは、同時進行でいくつもの戦略を実行できることだ。既存領域でのPRを行いつつ、新たな事業の可能性を同時に模索することができる。「既存事業のさらなる成長」と「新たな事業の模索」、その両方を行うことが企業の成長には不可欠で、その可能性を模索するためにWebマーケティングは非常に有効な手段といえる。フレームワークを活用することが、自社の現状を理解し、今後の進むべき道を検討する第一歩となる。ぜひうまく活用していただきたい。
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筆者紹介
小林正道
テクノポート株式会社 取締役
製造業のWebマーケティング支援を15年以上行っている。製造業への訪問実績は2,000社を超える。幅広い加工知識と市場調査をもとに、製造業の新規開拓営業の支援を行う。
『マーケティングスキル×Webスキル(SEO中心)×製造業に関する深い知識』
この3つのスキルを組み合わせることで独自の専門領域を作り、卓越した力を発揮する。
日本工業大学技術経営学修士(MOT)2023/3卒業。
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