自動運転の進化と人材育成を両立するには? 競争促す「コンテスト」:自動運転技術(2/3 ページ)
名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所 特任教授の二宮芳樹氏が自動運転技術の開発と人材育成の両方に資する技術開発チャレンジへの期待を語った。
要素技術の開発も競争が刺激
技術開発チャレンジは自動運転システムの開発を推進してきただけでなく、要素技術にも影響を与えてきた。
例えば、自動運転車専用の画像認識技術の競争の場になっているのが、2012年にドイツのカールスドゥーエ大学と豊田工業大学が作った「KITTIデータセット」だ。自動運転車に搭載する認識技術を評価、改良するためのプラットフォームになっており、現在も代表的なベンチマークとして使われている。自動運転技術で論文を執筆する際に、研究した認識技術がKITTIデータセットでどういう成績だったかを示さないと性能を認めてもらえない、という存在になっている。
現在、同様なデータセットが数多く作られている。自動車メーカーが大きなデータセットを作るまでになった。ウェイモは大規模なデータセットをオープンにしている。データセットには正解を付けたデータが大量に用意されており、それを使って認識エンジンに学習させることができるよう開発者に提供される。その一方で、評価用のデータも持っておき、各自の評価結果をランキングにすることもできるなど、「刺激的な仕組み」(二宮氏)になっている。
日本の技術開発チャレンジは
日本では、自動車技術会が「自動運転AIチャレンジ」を開催してきた。「インテグレーションチャレンジ」「シミュレーションチャレンジ」の2つが行われており、2023年で5回目を迎える(※)。コースアウトせず、障害物ともぶつからずにルールを守って効率よく走れるかどうかが課題となる。DARPAアーバンチャレンジと比べて学生でも参加しやすく、人材育成にフォーカスしている点が特徴だ。
(※)インテグレーション大会は2023年7〜10月にかけて開催。シミュレーション大会は2023年12月から2024年1月にかけて開催予定だ。
シミュレーションチャレンジは、道路環境やクルマ、他の交通参加者などがリアルで、危険な状況も含めて再現できるので、テストコースや実験車両を持っていなくても自動運転技術の課題解決にチャレンジできるというメリットがある。
二宮氏は「自動運転車の技術開発チャレンジは、当初は2050年に実用化できるかどうかといわれていた自動運転車の実現を早めるイノベーションを生んだ。また、重要な課題を解決するプラットフォームにもなっている」と訴える。ただ、技術開発チャレンジが成功するには、継続と改善、進化が必要であるという。国の支援に加えて、「大学だけ」「企業だけ」と偏らない産学官の参加と連携が重要だとしている。
「欧米は、企業と大学の間で垣根が低く人材の行き来が自由で、大学でベンチャー企業が生まれて企業に吸収されるということも頻繁に起きている。日本はその辺りがまだ遅れている。さらに、実際の課題とひも付けたテーマを設定することで、技術開発チャレンジに参加する価値を上げていくことも求められている」(二宮氏)
安全性評価の現状
自動運転車の技術開発チャレンジを盛り上げながら、実際の課題解決につなげていく上で今後のテーマとなるのは、安全性評価だ。運転席に人間が座らないレベル4の自動運行装置では、人間のドライバーの代わりとして一定の基準を満たすことが求められる。グローバルでは「合理的に予見可能で、回避可能な事故を起こさないこと」「道路交通のルールや法律を守ること」「有能で注意深いドライバーであること」といった抽象的な基準が設定されている。
こうした抽象的な基準に対して、具体的に歩行者や自転車がどのように飛び出し、どのようにブレーキをかけなければならないのか、他の車両のどのような割り込みや急ブレーキに、どこまで責任を持った対応をしなければならないのか、社内で基準を持って設計しなければならない。こうした状況では、技術を提供する側に製造物責任法や刑事責任のリスクがあり、自動運転技術の実用化における大きな課題の1つだ。
これに対し、日本自動車工業会(自工会)や日本自動車研究所(JARI)が精力的に活動しており、車線維持支援システム向けのUN-R157や、ISO 34502のシナリオベースの評価の策定に貢献した。ISO 34502は有能で注意深いドライバーとは何か、どのような割り込みを想定すべきか、人間のドライバーがどこまで対応できるかを実環境のデータやモデルで具体化した。自動車向け機能安全規格ISO 26262やISO 21448(Road vehicles-Safety of the intended functionality、SOTIF)、シナリオベースのISO34502は相互参照する。
今後は、降雨やぬれた路面といった外乱について、検出距離や精度がどのように影響を受けるか、車線維持支援システムと同じように評価基準を作っていけないか提案されている。UN-R157はあくまで高速道路での乗用車を基準にしているが、一般道や商用車に展開できる基準が作成されたという点で重要な取り組みだったという。
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