シミュレーションによる時刻歴応答解析を理解する:CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(13)(2/5 ページ)
“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第13回では「シミュレーションによる時刻歴応答解析」について紹介する。
時刻歴応答解析
動画1に、時刻歴応答解析の例を示します。
このように、機械の振動挙動を予測できます。結果として変位が出ますが、微分すれば速度と加速度が得られます。脚の変形が大きいのですが、脚は床に振動を伝えなくするためと、隣の機械が発生する床振動が伝わらなくするために、柔らかい材質のものを使用しました。ばね−マス系で説明した振動絶縁ですね。動画1の座標軸と図1の座標軸が一致していないのはご容赦ください。
時刻歴応答解析には、以下の2つの手法があります。
- モード重ね合わせ法
- フル法
解析ソフトでは、どちらを使うか選ぶスイッチがあります。「モード重ね合わせ法」は前回説明したモーダル解析結果からモーダルパラメーターを抽出して応答を求めます。「フル法」は時間刻みごとに運動方程式を解いています。両者の特徴を表1に示します。
手法 | モード重ね合わせ法 | フル法 |
---|---|---|
計算時間 | 短い | 長い |
材料 | 弾性材料 | 弾性材料、塑性材料 |
部品間の接触 | 固着 | 固着、摩擦あり接触 |
変形量 | 微小変形 | 微小変形、大変形 |
表1 時刻歴応答解析の特徴 |
モード重ね合わせ法は線形解析だけですが、フル法は線形解析でも非線形解析でも可能となり、何でもあり状態で時刻歴応答解析を行えます。共に計算時間刻みΔtには注意が必要で、注目している振動の周波数をf[Hz]とすると、計算時間刻みΔtは次式を満足させる必要があります。
摩擦あり接触要素を使った場合は、最初の時間刻みは前述したΔtよりも小さくする必要がありますが、それ以降は式1の時間刻みで計算が収束することがほとんどです。かつてはモード重ね合わせ法が第一選択肢でしたが、コンピュータの性能が向上した今となっては、ためらうことなくフル法が使えます。
その際、注意しなければならないのは「計算時間が長い」ことよりも、「HDDあるいはSSDの空き容量」です。10周期分の計算では10×20=200回分の解析結果が得られます。ストレージ容量が不足していると、数日かけて実施した計算の途中で「---------Unexpected error----------」とメッセージが表示され、計算が異常終了してしまいます……。どうやらソフト側ではストレージの空き容量までいちいち確認していないようです。「じゃあ、できたところまで見てみよう!」と思っても、異常終了なのでデータは保存されていても中身を確認することができない場合がほとんどで、最初からやり直しになってしまいます。
機械の部品同士はボルトで結合されています。結合部の変形状態を図3に示します。ボルトには軸力が発生しているのでA部に隙間が発生しています。この結果、上の板と下の板が密着している面積はごく限られたものとなります。
フル法ではこのような状態を初期状態とした振動挙動を計算できます。モード重ね合わせ法では部品間の接触は固着だけなので、上の板と下の板は密着した状態、つまり接着剤で引っ付いた状態で計算されます。
接着剤で引っ付いた状態とボルト穴近傍だけ密着した状態では、剛性、つまりばね定数が大きく異なります。接着剤で引っ付いた状態は、ばね定数が大きくなっています。ばね−マス系について解説した際、「ばね定数が異なると振動挙動は違うものとなる」「振動を下げたいのであれば、ばね定数を大きくすべきだ」と述べました。このことから、部品間の接触を固着でしか指定できないモード重ね合わせ法を使うと、振動変位が小さい結果が得られることが分かります。モード重ね合わせ法を使った場合は、以下のような状況にならないように注意が必要です。
シミュレーションの結果、振動変位は問題にならない程度に小さいようだ
↓
よし! デザインレビューも無事終了だ
↓
あれ? 機械を作ってみたら、予測よりも大きな振動変位が発生したぞ
↓
どうしよう……。解析専任者に相談しなければ……
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