米国で約1億人が利用する最大規模の医療施設チェーンで進むゼロトラストの実装:海外医療技術トレンド(97)(1/4 ページ)
米国最大規模の医療施設チェーンである米軍医療システム(MHS)では、DevSecOpsやゼロトラスト環境といったクラウドネイティブセキュリティの実装が急ピッチで進んでいる。
米国最大規模の医療施設チェーンである米軍医療システム(MHS)では、DevSecOps(開発、セキュリティ、運用)やゼロトラスト環境といったクラウドネイティブセキュリティの実装が急ピッチで進んでいる。
米国最大規模の医療施設チェーンを有する国防総省のスケール力
国防総省(DoD)傘下の米軍医療システム(MHS:Military Health System、関連情報)は、現役軍人、予備役軍人、退役軍人およびそれらの扶養家族を対象とした国防総省所管の医療システムであり、医療ケアの提供、医療教育、公衆衛生、民間セクターとのパートナーシップ、先進的な医療研究開発など、さまざまな機能を担っている。MHSは米国最大規模の医療施設チェーンであり、以下のような施設により構成される(2022会計年度時点の数)。
- 病院/入院施設:45(うち米国内31)
- 軍事救急医療・労働衛生施設:525(うち米国内456)
- 歯科診療所:138(うち米国内115)
患者数規模についてみると、2021会計年度時点で、年間の入院患者総数87万5100人、外来受診者総数9840万人となっている。加えて、東部/西部/海外の各地域では、地域の外部契約先が、米軍病院/診療所を越えて追加的な医療サービスを提供するために、医療提供者の文民ネットワークを設立している。
MHSは、以下のようなミッションを掲げている。
- 国家安全保障ミッションを遂行できるように現役および予備役の要員が健康であることを保証する
- 全ての兵役に服した現役および予備役の医療従事者が、世界中の作戦部隊を支援するために、訓練され、医療ケアを提供する準備ができていることを保証する
- 現役軍人、退役軍人およびそれらの家族960万人以上のサービスや犠牲に見合った医療給付を提供する
米国連邦議会の資料によると、2023会計年度におけるMHSの予算要求額は558億米ドル(約7兆8100億円)となっている(関連情報、PDF)。
表1は、2018〜2023会計年度のMHS予算規模(単位:10億米ドル)を示したものである。
表1 2018〜2023会計年度の米軍医療システム(MHS)向け予算規模(単位:10億米ドル)[クリックで拡大] 出所:Congress Research Service「FY2023 Budget Request for the Military Health System」(2022年4月29日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成(2023年7月)
表1において、「国防医療プログラム(DHP)」は、「運用/保守(O&M)」の補助科目であり、MHSの以下のような機能の財源となっている。
- 軍事治療施設(MTF)における医療ケアの提供
- トライケア(TRICARE)※)
- 特定の医療対応準備活動および海外作戦向け医療ケイパビリティ
- 教育およびトレーニングプログラム
- 研究、開発、検証、評価(RDT&E)
- 管理および司令部活動
- 施設の維持
- 調達
- 文民および外部委託先要員
※)トライケア:現役軍人、退役軍人および家族向けの医療保険制度
MHSは、DHPの中で主要な活動への支出として、以下のようなものを挙げている。
- 2億3420万米ドル:医療機器の入れ替えまたはモダナイゼーション
- 3810万米ドル:原因不明の健康インシデント犠牲者に関する医療および研究活動への支出
- 2860万米ドル:施設の復旧およびモダナイゼーション
- 1900万米ドル:軍事感染症研究
- 1750万米ドル:統合戦場医療研究活動(例:戦傷救護)
- 1410万米ドル:脳損傷
MHSでは、傘下の国防保健局(DHA)(関連情報)が、医学的に即応態勢のある部隊と即応医療部隊を平時および有事の戦闘軍に提供することを可能にするため、陸軍、海軍、空軍の医療サービスを横串にした共同の統合型戦闘支援機関として機能している。DHAは、世界中に約14万人の文民および軍事要員を擁しており、以下のような業務活動を行っている。
- 医療市場を先導して、軍の病院・診療所を管理する
- 戦闘軍に対して戦闘支援を提供する
- 世界中の960万人の受益者にトライケア医療保険を提供する
- 軍の病院・診療所に新たな電子健康記録(EHR)である「MHS GENESIS」を提供する
- 医学的に即応態勢を有することを保証するために、MHS提供者に教育とトレーニングを提供する
DHAは、統合軍向けに、年間110億米ドル規模の医療サプライチェーン(約56万台の医療機器を含む)に関する調達/配分を管理している他、医療情報システムの構築/運用やサイバーセキュリティ対策を所管している。また、EHRに加えて、国防総省、退役軍人省およびその他の官民パートナーの病院/診療所間相互で、医療データを交換/共有する統合医療情報交換(HIE)システムも構築/運用している(関連情報)。参考までに、米国内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応ワクチン向け医薬品サプライチェーンシステムは、国防総省が構築した後、保健福祉省に移管されたものである(関連情報)。
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