“製造業のため”のデータスペースを作る意義、「Manufacturing-X」が目指すもの:FAインタビュー(2/3 ページ)
欧州で進む“製造業のため”のデータスペースとして注目を集める「Manufacturing-X」。この「Manufacturing-X」を推進する企業の1社で主要メンバーとして参加するベッコフオートメーション COOのゲルト・ホッペ氏に話を聞いた。
“製造業のため”のデータスペースを作る意義
MONOist Catena-XとManufacturing-Xはどういう位置付けになるのでしょうか。
ホッペ氏 Catena-Xは、特に自動車産業において強い要請があったサプライチェーンの情報連携など「水平統合」を強く意識しており、使用する部品に関連する物質や仕様、カーボンフットプリント情報などをまとめて把握することを想定している。つまり、自動車の洗浄機やバッテリー、ホイールなどを購入した場合、その全てのデータをデータスペースに保管し、それぞれが閲覧したり活用したりできるような世界を想定している。もともとは2020年にBMWとSAPが中心となり結成されたAutomotive Allianceが推進母体となっており、その後、ダイムラーや、フォルクスワーゲンなど他自動車メーカーが参画し今のような形となっている。
ただ、自動車産業は部品点数も多く、サプライチェーンの構造も多くの製造業の中でも特に複雑だ。ただ、製造業だからこそ求められるような機能や特徴も存在する。そこで、自動車産業ほどの複雑な構造でなくても、製造業固有の特徴を踏まえた共通データスペースを構築するために生まれたのが「Manufacturing-X」だ。サプライチェーンを意識し水平方向でのデータフローをより強く意識しているCatena-Xに対し、Manufacturing-Xは製造の局面に関わる企業内での活動を集約する垂直方向のデータフローの仕組みを意識しているのが特徴だといえる。Catena-Xは先行しているため自動車産業では独自の動きも出ていたり重複していたりする取り組みもあるが、基本的には相互に連携しながら進めている。
MONOist Manufacturing-Xは具体的にはどういうものなのでしょうか。
ホッペ氏 Manufacturing-Xは垂直方向での情報連携を意識していると説明したが、機械や製品の生産データ、製造における品質データ、顧客データなどまで、製造現場から顧客まで一貫したデータを活用できるようにする仕組みを構築することを目指している。併せて、工場の生産ラインのライフサイクルに関するデータも取り扱う。エンジニアリングからアップグレードやメンテナンス、廃棄や再利用に至るまで、データを活用できるようにしていく。
例えば、シリンダーの製造工程では、リアルタイムで機械にアクセスし品質データを正確に知ることができるが、さらにシリンダーの製造に関連したアプリケーションを開発し、工場内の複数のプレーヤー、複数の機械、または複数の事業部門や企業とデータを共有することで、個々の部品の結果をより適切に判断できるようにすることを目指す。予兆保全アプリケーションやレシピの共有など、将来の製造業において差別化につながる重要な役割を果たす可能性がある。こうした仕組みを、オープンソースソフトウェアなど、よりオープンな技術を用いて実現したいと考えている。
現在Manufacturing-Xを主導するメンバー企業としては、ベッコフオートメーションの他、フランスのAtos、DMG森精機、ドイツのFesto、フラウンホーファー研究機構、Friedhelm Lohグループ、SAP、シーメンス、TRUMPFなどが参加しており、団体としてオープンインダストリー4.0アライアンスなども参加している。
さらに、Manufacturing-Xとして、製造業全体に通じるような基盤となる仕組みをハイレベルドメインとして構築し、それを業種ごとに特化した仕組みをサブドメインとして構築していくことを考えている。半導体業界に特化した「Semicon-X」や工場向けインテグレーターを対象とした「Factory-X」など、さまざまな「-X」を生み出し、それぞれの業態にあったデータスペース構築が行えるようにしていく。
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