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“クルマの中のライバル”ではなく、クルマの外を見たイノベーションを脱炭素(1/2 ページ)

「人とくるまのテクノロジー展 2023 横浜」での講演で、東北大学大学院 工学研究科 技術社会システム専攻 教授の中田俊彦氏は「電動化はラジカルイノベーション。単にクルマの性能がいいだけでなく、違った意味を持つ」と強調した。

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 カーボンニュートラルの実現に向けた自動車産業の取り組みの1つとして、電気自動車(EV)をはじめとする電動車の普及が加速している。車両の電動化は特に自動車のライフサイクル(製造/走行/廃棄)のうち、走行段階での二酸化炭素(CO2)排出量の削減に寄与する。「人とくるまのテクノロジー展 2023 横浜」(2023年5月24〜26日、パシフィコ横浜)での講演で、東北大学大学院 工学研究科 技術社会システム専攻 教授の中田俊彦氏は「電動化はラジカルイノベーション。単にクルマの性能がいいだけでなく、違った意味を持つ」と強調した。

カーボンニュートラル社会の推進役は民間企業

 中田氏が講演を通じて主張したのは、クルマはカーボンニュートラル社会を実現するために欠かせないエネルギー源の1つとして、その役割を果たさなければならないということだ。現在、日本で消費するエネルギーの原料の9割は輸入品に依存する。船で運んでくる化石燃料やガスなどを電力や熱に、自動車向けなど輸送用燃料などに変換して使用している。

 その一方で、再生可能エネルギー(再エネ)への期待が高まり、日本国内でも利用拡大に向けた取り組みが活発化してきた。中田氏は、「再エネの製造装置そのものは外国製が多く残念だ」としながらも、「たとえメードインジャパンではなくとも、“ユーズインジャパン”と言う形で優れたものをスマート社会で使っていくことが重要になる」と指摘する。今後、日本で使うエネルギーについても「船で世界中から運んできた化石燃料を、自分の裏庭(日本国内)の再生可能エネルギーで代替できる」と主張した。

 その推進役となるのが民間企業の力だ。中田氏は「他社より一歩進んだところが競争力になる」として、脱炭素化に向けた企業努力に期待を寄せている。グリーン電力や低炭素の部品調達を掲げているアップルやグーグルなどを例に上げ、「先行する企業は27年後の2050年を先取りすべく、5年後、10年後を見据え動いている。すでにその後の投資のことを考えており、最近の動きは激しい」とした上で、自動車関連業界に所属する聴衆に向けて「自動車はどうするのかと考えてしまう」と投げかけた。

改善や部品ではなく、アーキテクチャやラジカルなイノベーション

 中田氏が企業に期待を寄せているもう1つのポイントが「イノベーション」だ。イノベーションによって生み出された製品事例としてアップルの「iPod」や、PCのマウス、サービス事例としてSNSや格安航空会社、プロセス事例として自動車の大量生産組立ラインなどを紹介した。

 中田氏によると、社会から見たイノベーションは、「小さな改善(インクリメンタル)」「部品(モジュール)」「アーキテクチャ」「ラジカル」に分類できるという。社会システムにどのような変化をもたらすかという観点では、「改善」と「部品」によるイノベーションでは変化は起きず、20世紀型の要素技術開発の延長線となる。一方、「アーキテクチャ」と「ラジカル」によるイノベーションによって、新しい仕組みや設計思想、21世紀型のシステムデザインが生まれると指摘した。

 中田氏は自動車業界のイノベーションについて、「特に日本はインクリメンタルなイノベーションが多い。とにかく練習に練習を重ねて、毎年改善していくというイノベーションを続けてきた。内燃機関のあるハイブリッド車(HEV)は、インクリメンタルの最上位バージョンだと思う」と持論を展開した。

 その上で、中田氏が自動車業界に期待しているラジカルイノベーションは、EVを中心とする電動化だ。特にEVはモーターやバッテリー、車載ネットワークなど最新技術を搭載する機会になる。これによって自動車の機能が拡大して安全性も向上できる。

 また、EVをMaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)と組み合わせることで移動の自由度が増し、移動のCO2排出量の削減などで環境への貢献度も高まるなど、社会への影響は極めて大きい。中田氏は「EVはラジカルイノベーションの宝庫だ」と評価しながら、「私みたいな部外者から見ると、皆さんはクルマの世界だけで活躍している。今後、勝負するのはクルマの中のライバルではない。外に向かって筋の通った矢を放てるかが問われるのではないか」と述べた。

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