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今やBlackBerryの主力事業に、下克上を果たしたRTOS「QNX Neutrino」リアルタイムOS列伝(36)(2/3 ページ)

IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第36回は、1980年代からの長い歴史を持つ「QNX Neutrino」を取り上げる。

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ハーマンによる買収からBlackBerryのRIMの傘下へ

 そんな同社は2004年、ハーマン(Harman International)に買収される。ハーマン自身もその後サムスン(Samsung Electronics)に買収されてしまうが、この頃は高級オーディオメーカーとしてのポジションを確立しておりRTOSとは無縁に思える。

 ただ実際はこの当時、QNX Neutrinoは車載向け、それもテレマティクスやインフォテインメント、カーナビゲーションシステムなどに広く使われており、一方でハーマンは自動車向けのエンターテインメントシステムなどを手掛けていたから、実はこの買収は一応の相乗効果が得られるものではあった。といっても、当時まだQNXは自動車向け「だけ」を手掛けていたわけではなく、引き続き広範な市場にQNXを提供していた。

 良い例がシスコシステムズの通信機器向けソフトウェアであるIOS-XRやIOS Software Modularityなどで、これらはQNX Neutrinoをベースに構築されていた。そんなわけでQNXは、ハーマン傘下で引き続き従来のビジネスを継続しながら、QNX Neutrinoのバージョンアップを継続していく。2007年には、Hybrid Software Licenseという新しいライセンス形態を発表し、これに基づきQNXの開発コミュニティー向けにソースコードを無償公開した

 こうした「比較的開発者と近いところでビジネスをする」という姿勢は、RIM(Research In Motion)が2010年4月にハーマンからQNXを買収したことでいきなり変わる。当時のRIMは、スマートフォンの先駆けとなった携帯端末であるBlackBerryのビジネスが好調であり、その好調さが続いている間にプラットフォームの強靭化や多角化を図りたいと考えていたようで、QNXの買収はこの一環であると考えられる。RIMの買収後、QNXのソースコード公開は直ちに終了してしまい、また2011年にはBBX(のちのBrackBerry 10)にQNXベースのOS(GUIはQtベース)が搭載されるなどした(それまではJavaベースだった)。ところが、肝心のBrackBerryの売り上げが2010年あたりをピークに急速に落ち始めた結果、それ以上の協業はなされなかったもようだ(試作などはあったかもしれないが、公式にはAndroidベースに切り替わったこともあって表には出ていない)。

 QNX自身は、ハーマン時代にも増して自動車向けのソリューションに傾倒していく格好になっており、2013年にはQNX Car Platform for Infotainmentを、2014年にはQNX SDP(Software Development Platform)を発表。同じ2014年には、ISO 26262のASIL-Dまで対応したQNX OS for Automotive Safetyなどもリリースしている。これらの売り上げは順調というか、堅いビジネスなので安定した売り上げが見込めるものの、逆に採用決定から実際にそれを量産してライセンス料が入ってくるまでが長いので、大きなもうけにはなり難い。

 その一方で親会社のRIM(2013年にBlackBerryに改称)はどんどん売り上げが低下、2011〜2015年には大規模なリストラなども行われ、最終的には端末の製造から撤退してしまった。ちょっと後になるが、2022年1月にBlackBerryはモバイルデバイスなどに関する資産一式を総額6億米ドルで売却しており、QNXを中心とした自動車向けソフトウェアと、2019年2月に買収したサイランス(Cylance)のソリューションなどから構成されるセキュリティが中核事業となった。要するに、QNXはBlackBerryの事業の中核になったわけだ。

 2022年ごろからは、QNXは自動車向けのみならず、広く汎用の組み込み向けの用途にも利用できるというアピールを始めている。これは自動車向けではある程度シェアを取ってしまい、また最近では自動車向けOSにも多くの競合が出てきたことで、これ以上シェアというか売り上げを伸ばすのは難しいということで、一度は捨てた広範な組み込み向けを再びターゲットにして成長を継続したい、ということかと思われる。

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