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振動低減の戦略 〜ばね−マス系の振動【2】〜CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(9)(5/5 ページ)

“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第9回では振動を伝わりにくくする対策「振動絶縁」について説明する。

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騒音対策と振動伝達率

 図5にスピーカーを示します。コイルと磁石によって力が発生し、その力がコーン紙に伝わり、コーン紙が振動変位して音が放射されます。振動源と音源が別である例です。音を出したくなければ、振動源の力を音源に伝わらないようにすればよく、前述した振動絶縁の考え方が使えます。振動源と音源が異なる騒音事例は多く、騒音対策では音源の特定と振動絶縁の考え方が使えます。

スピーカー
図5 スピーカー[クリックで拡大]

力の周波数と機械の固有振動数が等しい機械

 前回、力の周波数と機械の固有振動数が一致することはめったにないと述べましたが、実はあります。大きな回転機械の場合は、停止時から運転速度まで回転数を上げるのに時間がかかるので、回転数を上げ下げする最中に周波数と機械の固有振動数が一致することがあります。残念ながら大きな回転機械の実務経験がないので、この対処法はお話できません。

 小さな機械でも力の周波数と機械の固有振動数が一致しているものがあります。パーツフィーダーです。雨どいのようなお皿に小さな部品が載っていて、お皿がブルブル振動して部品が移動していくものです。効率良く、つまり少ない消費電力で振動させるために、装置がばね−マス系になっていて共振状態で運転します。他にも、超音波溶接機があります。超音波が金属の溶接をするわけではなく、耳に聞こえない振動数で金属同士を擦り合せることで接合します。強烈な振動場なので普通の加速度ピックアップではレンジオーバーしてしまいます。超音波溶接機も共振状態で運転しています。

 説明のためにAM(Amplitude Modulation)ラジオを使います。AMラジオは図6に示す通り、選局ダイヤルとボリュームがあります。ラジオは共振回路であって、回路の共振周波数と放送波の周波数が一致し、共振状態になったときにラジオは聞こえます。ポイントは、調整するものが選局ダイヤルとボリュームの2つあることです。

AMラジオ
図6 AMラジオ[クリックで拡大]

 共振状態を作り出している機械には、多くの場合、選局ダイヤルはなくてボリュームだけです。選局ダイヤルに相当するものを付けたいのならば、高額な電源装置(アンプ)が必要になります。そのような機械もありますが、通常はばねとなる部品を交換したり、職人技でボルトの締め付け具合を変えたりして共振状態にしています。振幅と周波数の関係を図7に示します。共振状態が状態1から状態2にずれると、選局ダイヤルの調整に相当する作業は面倒なのでボリュームを上げることになります。そして、共振状態がまたずれて状態1に戻ると、ボリュームはそのままなので振動が大きくなります。それを放置するとどこかの部品が金属疲労で破断します。共振状態のずれ方は気まぐれなので、金属疲労を起こしたり起さなかったりと不安定な状態が続きます。例えば、1号機は大丈夫なのに2号機はダメといった状態です。

共振点近傍の振動特性
図7 共振点近傍の振動特性[クリックで拡大]

 このような場合は、振幅を常に監視する必要があります。パーツフィーダーの場合は周波数が低いので動く側に指示針があり、静止側に目盛があって針の振幅を目視します。周波数が高い場合は、振幅を測定する手段が必要になります。

 以上が振動対策の考え方でした。次回は、振動を測定する手段を紹介します。お楽しみに! (次回へ続く

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Profile

高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表


1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。

構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ


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