製造業のDXプロジェクトはなぜ失敗してしまうのか?(前編):DX時代のPLM/BOM導入(12)(2/4 ページ)
今回から本連載最終章です。DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトが失敗する原因について、グローバル製造業の経営企画部門所属の音更さんと経営コンサルタントの鹿追さんに、BOM(部品表)やPLMを軸に議論してもらいましょう。
ただし、業務をIT化するためには、工事計画の標準化が前提となります。従来は、現場監督の属人的な工事計画をもとに作業が進められていましたが、それが統制されることになり、品質の均質化や工程改善につなげることができたのです。
それ以外にも、工事現場は紙主体で情報授受するITサポートが少ない環境でしたが、本社からPCが提供され、いつでも迅速にセンターで集中管理される部材のカタログや図面を取り出せるようになりました。
つまりこれは本社だけでなく、工事現場や生産工場の効率を一気に高めることもねらっているということですか?
そうです。この改革コンセプトは、自社だけでなく、関係する全てのステークホルダーをWIN-WINにしていることが素晴らしかったのです。これは連載第2回で示した「製造業DXに必要なPLMの3段階デジタル化」で示したDXの定義に一致しています。
改革コンセプトを実感することができました。DXプロジェクトの開始時点でこれがあると関係者にこのプロジェクトの方向性を示すことができそうですね!
はい、DX成功企業は必ず明快な改革コンセプトを作成しています。
(2)本質課題にアプローチしていない
鹿追さん、最初から衝撃的なお話でした。次を聞くのが怖いですが、お願いします(笑)。
では覚悟はいいですか? 次は「本質課題にアプローチしていない」ことによる失敗です。
これは自分でも思い当たる節がありますが、また例を出して教えてもらえませんか?
分かりました。良い例と悪い例をご紹介しましょう。下図の上側の吹き出しをご覧ください。製造業の話ではないですが、頭痛を例にとって、表面的アプローチと本質アプローチの違いについて説明しましょう。
分かりやすいように病気の改善方法で説明いただけるということですね。了解です。
表面的な事象は頭痛です。とにかく頭痛薬を飲めば改善できる可能性があります。しかし、この患者の場合は、薬が切れるとまた再発していました。この患者の頭痛の原因を探ってみると、仕事のストレスで精神的な負荷が恒常的に高く、メンタルに問題があるようだと分かったのです。そして、職場とも相談し、業務の負荷を緩和することで、頭痛の原因を取り除き、事態の改善につながりました。
これが表面的な課題に対するアプローチと、本質課題に対するアプローチの違いです。ただし、頭痛薬による緩和、つまり表面的な課題へのアプローチ自体を否定しているわけではありません。併用が大事なので、ご注意ください。
なるほど、病気の例は理解しました。では、本題である製造業ではどのような話になるか教えてください。
図の下の吹き出しがそれに該当します。まず表面的な課題は、納期遅延件数の増加でした。これに対して経営者は、残業を増加させることや、納期管理強化を行うことによって対策しようとしました。確かにこれは一定の効果は出たのですが、残業コストや、従業員の疲弊による業務ミスの発生が増加し、根本解決にはつながりませんでした。そこで並行して納期遅延増加の原因を探ったところ、顧客の要望を重視するあまり、特注件数が従来よりも多くなっていたことが判明したのです。
経営者は、営業部門に対して、標準仕様や標準オプションを積極提案し、特注になる場合は、それに見合ったコストや納期で受注するように営業戦略を変更するよう指示しました。この対策により、売上増、顧客満足度だけなく従業員満足度向上につなげることができたのです。
違いがよく分かりました。本質課題への踏み込みが甘いと、見た目の成果は出たように見えても、その企業の本質課題の改善にはつながらないということですね!
成功企業は課題設定がとてもうまく、成果が出ない企業では、そこができていないことが多いのです。
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