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インダストリー5.0時代に生きる道、日本型プラットフォームビジネスの論点インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略(5)(2/5 ページ)

インダストリー4.0に象徴されるデジタル技術を基盤としたデータによる変革は、製造業に大きな変化をもたらしつつある。本連載では、これらを土台とした「インダストリー5.0」の世界でもたらされる製造業の構造変化と取りうる戦略について解説してきた。最終回となる第5回では、今まで触れてきた製造業がプラットフォーム戦略を取る際の論点について整理する。

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デジタルに「フック」をかけてフィジカルに「回収源」を

 特定領域にセグメント化されたプラットフォーム構築を目指す場合、製造業にとってはビジネス転換が前提となる。モノ売りではなくソリューションビジネスへの転換だ。そして、ソリューションビジネスで成功するには、より多くの顧客接点を確保し囲い込みにつなげる「フック」と、実際の収益源や回収エンジンを確保する「回収源」を戦略的に振り分けて全体ビジネスの構築を進めていくことが必要になる。

 例えば、B2Cのデジタルサービスではユーザー数を膨大に増やし、会員費やサービスフィー、それを土台とした広告費などで収益の規模を稼ぐパターンが考えられる。そのため、プラットフォーム自体がフックであり回収源でもある収益モデルを構築することが求められる。

 しかし、製造業などモノづくり企業の大半を占めるB2Bでは、産業や工程ごとに限られたソリューションとなるため、B2Cと比較してユーザー数の爆発的な増大は見込めない。そのため、会員費やアプリケーション課金などのデジタル領域のみでビジネスの柱として企業を支える規模の収益を得ることは難しい。そこで、デジタル技術やサービスをフックとし、単価の高いフィジカルレイヤー(物理/実オペレーション世界)での回収点を持つことを考えることが必要となる。この回収点の設定が大きなポイントだといえるだろう。

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図2:ソリューションビジネスにおけるフックと回収源[クリックで拡大] 出所:筆者著書「製造業プラットフォーム戦略」より

コア顧客に「深さ」で入り標準解で「広さ」を担保

 ソリューションビジネスを展開するために、日本の製造業が考えるべきポイントは、ソリューションの「深さ」と「広さ」のバランスだ。顧客の課題解決(ソリューション)をベースとして考える場合、顧客の課題に基づくソリューション開発で特定顧客に響かせる「深さ」は何よりも重要だ。一方で特定顧客に寄り添いすぎる開発を進めると収益性の面で難しくなり市場性との整合性が取れなくなるケースが生まれる。そのため「標準/共通解」を設定する「広さ」も重要となる。

 日本の製造業は個々の顧客に「深く」寄り添い、それぞれにカスタマイズした事業開発を強みにしてきた。一方で、それを標準ソリューションとして「広く」横展開することや、効率的にパートナーを活用して拡大することが苦手だといえるだろう。個別企業の課題に寄り添えば寄り添うほど、その個別企業の満足度は上がるものの、他企業や産業には当てはまらないニッチな商材となり、拡大が難しくなる。また、特定顧客に寄り添いすぎたソリューションは、外部パートナーがそれを解釈して他社に展開することも難しくなる。その結果として拡散力がないために収益性が悪化し、競争力を失うこととなるのだ。

 グローバルでのプラットフォーム先行企業は、各社ともに「標準化」「ニーズの引き算」が成否を分けるポイントだと指摘している。彼らはコア顧客のニーズを以下の2階建てで分解して捉え、展開を検討することが定着している。

  • 【1階】標準解:コア顧客のみならず同業や他産業においても共通の課題であり、この課題を解決するソリューションを開発することで多くの企業に拡大できる
  • 【2階】個別解:特定顧客の企業事情やニーズにもとづく課題であり、この課題に対するソリューションは他企業や業界で展開できず効率性が低い

 この中で標準解である【1階】は、リソースを投入して開発に注力する領域である。プラットフォーマーとして業界共通で収益を得られる収益源となるためだ。【2階】は個別解となるため、効率的な拡大を主眼とするプラットフォーマーは避けたい領域となる。そのため、標準解はプラットフォーマーの共通ソリューションとして、個別解はインテグレーションを担うエコシステムパートナーの役割として、それぞれ分担を明確化する枠組み作りを進めている。これにより、プラットフォーマーとして非効率となる個別対応をなるべく抑えているのだ。日本の製造業がセグメント化されたプラットフォーマーを目指すのであれば、メガプラットフォーマーの「標準解」から外れた上で、これら個別解と共通解の振り分けを考慮し収益性の確保できる領域を見つけ出すことが重要になる。

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図3:ソリューションビジネスにおける深さと広さ[クリックで拡大] 出所:筆者著書「製造業プラットフォーム戦略」より

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