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異色の分散システム向けRTOS「Virtuoso」の30年にわたる系譜リアルタイムOS列伝(34)(1/3 ページ)

IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第34回は、分散システム向けRTOSとして約30年展開されてきた「Virtuoso」「OpenComRTOS」「VirtuosoNext」を紹介する。

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 今回ご紹介する「Virtuoso」「OpenComRTOS」「VirtuosoNext」は、リアルタイムOS(RTOS)としての構造も割と珍しいが、1990年代から続く歴史的経緯という意味でもかなり珍しい部類に入る(図1)。

図1 Altreonicの「VirtuosoNext」のWebサイト
図1 Altreonicの「VirtuosoNext」のWebサイト

Transputer向け分散RTOSとして開発された「Virtuoso」

 Virtuosoという最初の製品を開発したのはEONIC Systemsである。同社は軍用向けのシステムを手掛けている会社で、少なくとも2016年4月ごろまではWebサイトが存在しているが、その翌年にはサイトが消滅、2018年にはイギリスのEONIC digitalがドメイン(http://www.eonic.com/)を買収しているあたり、おそらく2016〜2017年あたりに会社がなくなったものと思われる。このEONIC System、1990年ごろからDSPを利用した製品を開発していた会社であり、1992年に「VSP(Virtual Signal Processor)」と呼ばれるRTOSを開発する。もともとは英国InmosのマイクロプロセッサアーキテクチャであるTransputerをベースにしたシステム向けの分散RTOSという扱いだった。

 ご存じないかもしれないが、Transputerにはプロセッサ同士をつなぐSerial Linkが4組用意されており、これを利用して簡単に2Dメッシュなどの構成を取ることが可能というか、当初からマルチプロセッサシステムをターゲットとしたもので、しかも増減が簡単に行えた。こうした用途では、当時の既存のRTOSではいろいろとうまくいかない。そこで分散カーネルのRTOSを開発したというわけだ。

 VSPは1992年に発表され、その後に「Virtuoso」に改称される。その1992年内に、TIのTMS320CxxシリーズDSPに対応した「Virtuoso Micro」が、1993年にはContext Switchを1μs未満に抑えた超軽量の「Virtuoso Nano」と、そのVirtuoso Nanoのカーネルにマイクロカーネルを組み合わせた「Virtuoso Classico」も発表。同じく1993年には、Analog Devicesの21020に移植されるといった具合だ。

 1997年時点で言えば、航空宇宙や自動車、コンシューマー機器、イメージプロセッシング、産業機器、計測機器、軍用、気象レーダー、研究機関、通信といった複数の分野に顧客を抱えていた。2000年にはVersion 4.2もリリースされるが、これがVirtuosoの最終バージョンとなる。というのも、2001年1月にWind River SystemsがEONIC SystemsのRTOS部門を丸ごと買収し、VirtuosoもWind Riverに権利が移り、開発者もWind Riverに移籍したからである。

 ちなみにEONIC Systemsは1999年ごろから「Atlas」と呼ばれるハードウェアソリューションを提供開始しており、Wind RiverにRTOS部門が買収された後はこのAtrasをベースとした軍用向けハードウェアの提供に舵を切ることになる。一方、Wind Riverに移ったVirtuosoであるが、その後は長く放置されることになる。2015年、Wind Riverは「Wind River Rocket」を発表するが、実はこのRocketはVirtuosoを引っ張り出してリブランドしたものである(ついでにx86やCortex-M3への移植も行った)。ただこれは長く続かず、結局消滅することになった。

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