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ホウレンソウの収穫量を1.4倍とする植物成長促進分子を開発、CO2で育つ仕組みとは脱炭素(1/2 ページ)

パナソニック ホールディングスは、2024年度の上市を目指し、野菜の収穫量を増加する植物成長促進分子「Novitek」の開発を進めている。

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 国際連合が発表した「世界人口推計」の2019年版によれば、2021年時点で約79億人だった世界人口は2050年に97億人に達すると推測し、合わせて世界の食料需要が2015年比で1.5倍の58.2億t(トン)になると予測している。増加を続ける世界の食料需要に対応するために効率的な野菜の栽培方法や食材の長期保存を実現する技術などが求められている。

 こういった状況を踏まえて、パナソニック ホールディングス(以下、パナソニックHD) テクノロジー本部では、野菜などの育成を後押しするソリューションとして、空気中のCO2を原材料に用いた植物成長促進分子「Novitek(ノビテク)」の開発を進めている。製品化は2024年度中で、国内/海外の農業生産者や資材メーカーを対象に、月産数万tの少量生産で販売を開始する予定だ。

 そこで、パナソニックHD テクノロジー本部の児島征司氏に、Novitekを開発した背景や特徴、今後の展開などについて聞いた。

トウモロコシなどの穀物でも有効

 Novitekの開発は2019年に始動し、大学で葉緑体の基礎研究をしていた児島氏が、光合成微生物の一種「シアノバクテリア」を用いた植物成長促進分子の開発を社内で依頼されたことに端を発する。

 Novitekは、シアノバクテリアを基に生成した「外膜脱離型シアノバクテリア」にCO2を含む空気や光、水、無機養分を付与し培養した後、抽出された疑似的な葉緑体だという。空気の付与はフィルムを通して行い粉じんなどを取り除く。


天然の葉緑体に着目しシアノバクテリアを用いて「Novitek」を開発[クリックで拡大] 出所:パナソニックHD

パナソニックHD テクノロジー本部の児島征司氏

 児島氏は、「外膜脱離型シアノバクテリアは光合成により固定される有機炭素の約50%を細胞外に放出する。この有機炭素が植物の成長/補助する成分を含んでいるため、疑似的な葉緑体として機能し、野菜の育成を後押しできる」と話す。

 Novitekの作成手順は、まずシアノバクテリアの外膜構造維持に関わる遺伝子の発現を抑えた外膜脱離型シアノバクテリアを創出する。続いて、CO2変換リアクタで外膜脱離型シアノバクテリアにCO2を含む空気や光、水、無機養分を付与し培養して有機炭素を抽出するという。


CO2変換リアクタで外膜脱離型シアノバクテリアにCO2を含む空気や光、水、無機養分を付与し培養[クリックで拡大] 出所:パナソニックHD

 効果に関して、対象となる野菜や果物の葉面にNovitekを散布することで、ショ糖分解酵素の一つである酸性インベルターゼが活性化し、光合成生産物の代謝フローが増強する。これにより、野菜や果物の収穫量が増える。さらに、Novitekの原料としてCO2を活用するため脱炭素にも貢献する。

 既に複数年/複数箇所での効果実証に成功し、多品目/全国の農地で試験を実施している。一例を挙げると、2021年度には農地でホウレンソウの収穫量が40.9%増加した。児島氏は、「Novitekはトウモロコシなどの穀物でも有効だった。根菜については、ホウレンソウやトマトのように1カ月当たり1〜2回の葉面散布の葉面散布では効果が得られず、地上部の葉が大きくなる時期に集中的にNovitekを葉面散布すると効き目があった。米と麦は実証を行っていない」と注意点をコメントした。


「Novitek」の効果の実証[クリックで拡大] 出所:パナソニックHD

「Novitek」の効果でホウレンソウ農地左側の収穫量を40.9%増加、右側はNovitekを未利用[クリックで拡大] 出所:パナソニックHD

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