宇宙のロボット技術で農業を楽にしたい、東北で挑むイスラエル生まれの起業家:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(3)(2/4 ページ)
本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は農業向けAIロボットを開発する「輝翠TECH」を取材しました。
SpaceXのインターン後、好きな日本で博士進学
――どんなきっかけで日本に来たのですか?
タミルさん 2013年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の3年生でしたが、「Google Lunar X Prize(グーグル・ルナ・エックスプライズ:Googleがスポンサーとなり、XPRIZE財団が運営)」の世界初の月面探査レース記事で、東北大学航空宇宙工学専攻の吉田和哉(よしだかずや)教授を知ったことがきっかけでした。日本ではロボットの研究が進んでいると聞き、すぐに吉田先生に連絡しました。
3カ月だけでしたが仙台でサマーインターン生として過ごしました。そのときに、いつか日本に戻りたいと思いました。
――UCLAに戻られたあと、米国でインターンされていたんですよね?
タミルさん はい。宇宙開発企業のSpaceXとドローン企業のAeroVironmentに入り、インターンをしました。でも、その後制御だけではなくAIも勉強したいと思い、もう一度吉田先生にご連絡して、2018年に再度来日して博士課程は東北大学に進学しました。
――なぜ欧米ではなく日本を選んだのですか?
タミルさん 日本はロボット研究に強いということもありますが、米国と似ている環境より日本で研究する方がいいかなと思っていました。
また、大学3年生で仙台に滞在したときに、仙台は安全でフレンドリーで住みやすいと感じていました。東北の寺院の建築が好きで、よく旅して回っていました。
――どんなお寺が好きですか?
タミルさん お寺の建築として宮城の海の方にある鹽竈神社(しおがまじんじゃ)が好きですね。周りに森や自然があるところが好きです。
――わたくし初耳でした。ぜひ今度行ってみたいと思います!
強化学習による経路探索を研究
――タミルさんの子供の頃について教えてください。
タミルさん 小さい頃は友達と遊ぶとか、スポーツとかビデオゲームが好きで、「ドラゴンボール」を見たりしていました。特に好きなキャラクターは「ベジータ」。でも、そのときはドラゴンボールが日本のものだと知らず、米国のものだと思っていました。高校生のときは医学や生物などに興味があり、工学にはあまり興味を持っていませんでした。
――大学での専攻はどのように決めたのですか?
タミルさん 入学するときには明確に専攻を決めていませんでした。専門分野を決める前にさまざまな授業を取りながら工学分野に決めました。宇宙ロボットを作るという部活動があり、その活動に参加したのですが、その活動が楽しかったので宇宙ロボットを勉強したいと思うようになりました。
また、工学系の方が仕事が見つかりやすいだろう、という両親の勧めもありました。父は製造業で品質管理をしていますので、その影響もあると思います。
――どうしてロボットの中でも宇宙ロボットを専攻されたのですか?
タミルさん 宇宙は広いですし、分からないことも多い分野です。そんな世界をもっと知りたいと思いました。また、SF映画などを見て、宇宙開発の技術はまだこれからだと思っていました。
――宇宙ロボットというと、例えば月面走行ロボットのようなものですか?
タミルさん はい、そのようなロボットも宇宙ロボットの1つです。月面ローバーといわれています。
月面ローバーは制御が大切です。凸凹がある路面の走行できるところとできないところを判断しなければなりません。私の博士論文では、強化学習を使った経路探索を研究しました。ロボットにあらかじめ地図を覚えさせて動くのではなく、最初は地図がない状態からロボットが自分で周囲の地図を作りながら走行する、そういった技術です。
――ロボットに動作を覚えさせるために、一般的には人間が最初教える必要があるような気がするんですが、そういうことは必要なのでしょうか?
タミルさん 私の研究内容はロボット自身がセンシングした情報を基に、自動的に地図を学習していくという内容でした。ゴールに近づいたらよい、遠ざかったらだめ、岩にぶつかったらだめ、といったように自分で徐々に学習しながら進んでいきます。
――りんご収穫ロボットでも同様の技術を使っているのですか?
タミルさん 必ずしもその技術を全て使っているわけではありませんが、農家で使うためにどの技術が最適なのか選びながら開発しています。
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