水平分業での日本の製造業の戦い方と製造業プラットフォーム戦略の考え方:インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略(4)(3/5 ページ)
インダストリー4.0に象徴されるデジタル技術を基盤としたデータによる変革は、製造業に大きな変化をもたらしつつある。本連載では、これらを土台とした「インダストリー5.0」の世界でもたらされる製造業の構造変化と取りうる戦略について解説する。第4回は、デジタル化による水平分業で日本の製造業が生かせる強みと、新たな競争力を担保する「製造業プラットフォーム戦略」について紹介する。
デンソーが進めるものづくりプラットフォーム展開
モノづくりで培った生産技術力を効果的に他社展開しているのが、世界大手の自動車部品メーカーのデンソーだ。デンソーは1949年の創業から自動車部品製造における多種多様なモノづくりで培った製造技術を標準化し、他社のモノづくりを支えるために外部展開するFA事業部を2017年に設立(2021年にインダストリアルソリューション事業部へ変更)している。自社のモノづくりで生まれたロボット技術や、現場の情報管理を行っていくためのQRコードや、世界中の工場をつなぐIoT関連製品の外販も行っている。
特徴的なのがタイを中心としたASEANにおける展開である。自社のモノづくりノウハウをベースとした教育プログラムを産官学の連携を通じて提供することで、産業基盤強化や新たな市場の形成に貢献している。
具体的には、デンソーが日本政府とタイ政府と連携し、現地のシステムインテグレーター(生産設備メーカー)や製造業の生産技術エンジニアに向けた教育カリキュラム「LASI(Lean Automation System Integrators)」を開発した。LASIは、デンソーが蓄積してきたリーンオートメーションのノウハウをトレーニングプログラム化したものだ。「自動化の前の合理化」「現場で磨いた自動化技術」「改善しつづける現場作り」などをコンセプトとしており、バンコクにはラーニングファクトリー(実証ライン)なども用意している。同ラインでは、ロボットを用いた自動化ラインとデジタルツインが連動しており、製造ラインをエンジニアリングする際に図面だけではなく3Dイメージを踏まえて検討できる。ノウハウだけでなく最新の技術を活用している点も特徴だ。
LASIはこれまで現地大学や教育機関と連携しながら約800人のエンジニアを育成している。今後このLASIをタイから逆輸入し、日本でも展開する計画なども示している。さらにデンソーでは、タイを中心としたASEAN地域の製造業に対し、競争力強化や生産性向上についての直接的な支援も行っている。自社のモノづくりで培った生産技術力や、IoTを活用した見える化技術、ロボットをはじめとした自動化技術などを活用して、生産ラインやオペレーションの診断、データを活用した見える化、カイゼン、効率的な自動化、OEE(設備総合効率)の向上などを総合的に支援している。自社ソリューションありきではなく、モノづくりの試行錯誤の歴史を通じて培ったノウハウをもとに徹底した「ユーザー目線」で支援を進めており、これが、現地製造業からの信頼の獲得につながっているという。
LIGHTzが示したものづくりプラットフォーム展開
LIGHTzは2016年に設立されたAI(人工知能)企業であり、金型成型メーカーのIBUKIを関連会社に持っていた(当時)(※)。LIGHTzでは、IBUKIでこれまで熟練工の「勘と経験」に頼っていた樹脂成型のノウハウを、射出成型機や金型内に設置したセンサーや人工知能を活用して可視化し、業務内容の大幅な改善を実現した。さらに、これらをパッケージ化し、分析/異常検知などを行う金型管理IoTアプリケーション「xブレインズ」を提供した。熟練工の暗黙知やノウハウをブレインモデル(Brain Model)の形式で言語化し、そのデータを教師データとして熟練者技能継承AIプラットフォーム(ORGENIUS)に教えることで、知見を共通利用できる「汎知化」サービスとして展開している。xブレインズは、ドイツのシーメンスが展開するIoTプラットフォームにおいて、アプリケーションとして提供されている。
(※)当時はO2グループとして、LIGHTzとIBUKIは関連企業だったが、2021年12月にO2がIBUKIの全株式をしげる工業に譲渡し別会社となっている。その後、2022年3月にはO2はLIGHTzの株式85.1%を手放している
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