100年企業に向けて企業名変更に込めた思いとは、商社から事業創出会社への脱皮図る:FAニュース
菱電商事は同社本社で記者会見を開き、2023年4月1日付で行う「株式会社RYODEN」への社名変更の意図や、創業100周年を見据えて制定したパーパス、バリューズについて説明した。
菱電商事は2023年3月29日、同社本社(東京都豊島区)で記者会見を開き、同年4月1日付で行う「株式会社RYODEN」への社名変更の意図や、創業100周年を見据えて制定したパーパス、バリューズについて説明した。
承継と進化でさらなる成長を目指す
菱電商事は1947年に三菱電機の販売代理店として利興商会の名で創業し、その後、大興商会との合併を経て1958年に菱電商事となった。現在は国内29拠点、海外21拠点を持ち、従業員数は約1200人。FAシステム、冷熱システム、ビルシステム、エレクトロニクスの4つを基幹事業とし、近年はスマートアグリやヘルスケアにも進出している。2022年度の売上高は2490億円、営業利益は79億円の見通しとなっている。
2020年からは5カ年の中期経営計画「ICHIGAN2024」がスタートし、商社の枠を超えた事業創出会社への発展や、営業利益100億円以上、新事業売上高2018年比150億円増、営業利益率3.8%などの経営目標を掲げている。
菱電商事 取締役社長の富澤克行氏は「2022年に創業75周年を迎え、これから100年企業としてどういう方向に向かっていくべきかを社内で色んな議論をした。単なる物販ではなく、価値を創造してユーザーの価値を向上させ、社会に認められる会社になるためには、トレーディングのイメージが強い商事という名前を持っていると、従来の物販に引きずられてしまう。自らを変えていき、ユーザーにも菱電は変わったということを認識していただくためにも、社名変更が重要だと認識した」と社名変更の狙いを語る。
ただ、既に半世紀以上使い、ユーザーにも浸透している菱電の響きは残し、RYODENとした。「菱電のDNAは大事にしていきたいと考えた。ただ、われわれは継承ではなく、承継と進化という言い方をする。過去を引きずらざるを得ないような継承ではなく、志やDNAといった形のないものは継ぐが、要らないものは捨て、大きく変化、進化していくという意味だ」(富澤氏)。
2022年には経営理念の上位概念として、「人とテクノロジーをつなぐ力で“ワクワク”をカタチにする」から成るパーパスと「人とのつながりを力に」「強みを知り、強みを磨く」「常に挑戦し、失敗から学ぶ」「フェアに、そして誠実に」の4つの項目のバリューズを制定した。「人とテクノロジーをつなぐのは代理店商社として当たり前なことだが、それをさらに力にしていき、この2つの力をしっかりと発揮して、新生RYODENを確固たるものにしていきたい」(富澤氏)。
2023年4月には社外への発信などを強化するためコーポレートコミュニケーションセンターを新設。事業創出のためのエンジニアリング活動を統括する戦略技術センターを設けて、各事業から集めた30人程の技術者によって新しい技術、ソリューション提案を図る。また、スマートアグリ事業を核として省エネなどに関わるセーブエナジーを実現するビジネスを統括するグリーンシステム事業本部を新設する。
世界初のほうれん草の次世代植物工場
スマートアグリ事業では既に菱電商事とファームシップが合弁会社を設立し、大規模生産では世界初となるほうれん草の次世代型植物工場「Block FARM」が2022年に静岡県沼津市に完成している。菱電商事が開発した環境制御アルゴリズムと植物工場向けIoT(モノのインターネット)システムにファームシップの新たな栽培手法を組み合わせて、使用電力の削減などを実現した。
ほうれん草を選んだ理由は「まず葉物野菜はトマトやイチゴと違って受粉をしなくていい。その代わり生育を最適化するための光の波長や空調の制御をしっかりとやらなければいけない。ほうれん草は生食には向かないが、水耕栽培をすることで加工もできて生食にも使えようになり、使い勝手が広がる。季節性も高く流通量が大きく変動するため、安定的に供給できる仕組みが必要だった」と富澤氏は話す。
生産量は日量3トンで路地栽培に比べて100倍の面積生産性になるという。ハウス食品と技術連携を開始した他、その他の食品メーカーも強い関心を示している。富澤氏は「Block FARMでは同じ建屋の中で昼と夜に分けて作ったり、温度管理を別々にしたりすることで多品種変量生産ができる。これで終わりではなく、より高付加価値の野菜の栽培にも取り組んでいきたい」と意気込む。
直近の事業環境については日本各地の再開発やコールドチェーンの再編、強化の動きもあって「ビル、冷熱事業には追い風が吹いている」(富澤氏)。FA事業も製造業の人手不足や環境対応、一部の生産拠点の国内回帰などがあり、「今後も成長していく」と見る。ただ、エレクトロニクス事業は半導体不足の反動から需給バランスが崩れ、「踊り場ではあるが、需要自体は増えていく方向」とした。
その上で富澤氏は「ハードウェアは技術の進化でコモディティ化していく。その中で、われわれはユーザーにとって最適なものをいかに組みわせて提案するかに視点を移していく。われわれは新しい技術を開発する会社ではない。今ある技術、あるいは芽生えた新しい技術をどうやって組み合わせればユーザーが求めているものになるかを発想することが、われわれのような会社にできることだ」と事業創出会社への意欲を示した。
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