CAEで理想のデザインを追求、カシオが電子ピアノの新モデル開発で実践:CAE最前線(3/4 ページ)
カシオは電子ピアノブランド「Privia」の新モデル「PX-S7000」の開発において、デザインチームからのデザイン提案の段階で早期にCAEを活用することで、商品コンセプトに沿った新規性の高いデザインと、設計面から見た成立性の双方を満たす製品開発を実現した。
業務フローの初期でCAEを活用、デザイン性を損なわない設計へ
「『Style, Reimagined』というPX-S7000の商品コンセプトに基づく、電子ピアノのリデザインの達成に向けて、業務フローの初期段階でCAEを活用し、デザイン性を損なわない設計を実現した」と語るのは、PX-S7000の製品開発で主に解析を担当したカシオ 羽村技術センター 技術本部 機構開発統轄部 第二機構開発部 22開発室の佐藤俊彦氏だ。
従来の電子ピアノに見られる箱型のデザインと比べ、4つ脚スタンドを採用するPX-S7000のデザインは一見すると非常に華奢(きゃしゃ)なものに見えるが、今回デザインチームから上がってきたデザイン提案に対して、設計よりも前にCAEによる事前検証を実施したことで、従来の電子ピアノと同等の品位/品質を確保しながら、360度全方位に美しいフォルムを実現できたという。
CAEをそもそも使っていないケースであれば、デザインチームからのデザイン提案を受け、それを基に設計者が形状に落とし込み、試作品を製作して検証するというアプローチをとることになる。ここで試作品の検証結果がNGであれば、デザイン提案からやり直す羽目になり、再設計となる。場合によっては時間だけがかかり、デザインFIXに至らないこともあり得る。
一方、設計の後にCAEを活用する通常のアプローチの場合、デザインチームからのデザイン提案を基に設計し、それをCAEで解析/検証するという流れとなる。新規性の低いデザインであれば無難な設計に落とし込むことでデザインFIXにもっていくことも可能だが、新規性の高いものになると、どうしても手戻りが生じやすい。CAEによる解析の結果、NGであれば先ほどと同様に、デザイン提案まで立ち返って、再度設計することになる。
「これら従来のフローに対して、今回推進したのがデザインチームからのデザイン提案直後でのCAEによる事前見極めだ。ここで設計者がデザイン提案を基に、設計として成り立つような3Dモデルを簡易的に作成し、CAEで解析/検証することで複数のアイデアを事前に検証できた。PX-S7000のデザインの特徴でもある4つ脚スタンドのデザインもこうしたアプローチにより実現した」(佐藤氏)
4つ脚スタンドを採用するPX-S7000のデザイン性と強度/剛性の両立は避けては通れないポイントだ。
「カシオでは製品のデザインや操作性を重視するとともに、ユーザーの安全性にも細心の注意を払っている。PX-S7000の設計では、スタンドやペダルに対してさまざまな方向から負荷をかけて、壊れないか、ぐらつかないかを3D上で徹底的に評価した」と、PX-S7000の製品開発で主に4つ脚スタンドやペダルの設計を担当したカシオ 羽村技術センター 技術本部 機構開発統轄部 第二機構開発部 22開発室 チーフ・エンジニアの永妻成之氏は述べる。
一般的には、脚と脚の間に補強部材を入れて強度と剛性を確保するという方法がとられるが、デザイン性を重視し、全く補強部材を付けずに実現しようとすると、脚の付け根部分にある部材(接合部)に非常に大きな負荷がかかる。「この負荷に耐えられる構造を検討するのにCAEが大いに役立った」(永妻氏)。
実際には、左右に1つずつあるスタンド接合部(2本の脚と本体を支持する棒を取り付ける部材)の形状検討にCAEを活用し、これまで得意としていた板金ではなくダイカストで実現する方向性を固め、最終的に強度/剛性とデザイン性を両立したスタンド接合部を生み出すことに成功した。
永妻氏は「スタンド接合部をできるだけ見えない位置に持っていったり、細かなリブの位置や形状を調整したり、さらには脚と脚の間に入れた補強部材(貫)を演奏者が座った位置から見えづらい場所に通したりなど、デザイン性を常に考えながら設計としても成立させるという点で苦労があった。だが、デザイン提案の段階でCAEを用いて検証し、デザインチームに問題点をフィードバックしながら進められたので、その後のフローで大きな手戻りもなくデザインFIXまでもっていくことができた」と振り返る。
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