CAEで理想のデザインを追求、カシオが電子ピアノの新モデル開発で実践:CAE最前線(2/4 ページ)
カシオは電子ピアノブランド「Privia」の新モデル「PX-S7000」の開発において、デザインチームからのデザイン提案の段階で早期にCAEを活用することで、商品コンセプトに沿った新規性の高いデザインと、設計面から見た成立性の双方を満たす製品開発を実現した。
「PX-S7000」のデザインを象徴する3つのポイント
実際、PX-S7000のデザインを検討するに当たっては“テクノロジーによって、日々の生活と調和するデザイン”というコンセプトの下、特に「ミニマルでスリムなデザイン」「全方位に美しいフォルム」「ユニークなCMF(色、素材、仕上げ)」の3つの点に注力したという。
プロダクトデザイナーとしてPX-S7000のデザインディレクションに携わったカシオ 技術本部 デザイン開発統轄部 アドバンスデザイン室 リーダーの中村周平氏は「一般的な電子ピアノと比べてかなりの要素がそぎ落されており、非常にシンプルなフォルムに仕上がっている。また、コンパクトな本体、4つ脚スタンドの採用によって家具のような印象を与えると同時に“抜け感”を生み出し、人の視界を遮らず圧迫感を感じさせない。そして、好きな場所に好きな向きで設置できるように、どこから見ても美しい360度全周デザインを採用している。好きな場所で演奏できることで、ピアノがコミュニケーションの輪の中に入っていけるようになる。CMFもインテリアに馴染むようスピーカーにはファブリック素材を、スタンドの4つ脚には木目を採用するなど形状だけでなく、質感にもこだわっている」と説明する。
カラーバリエーションに関しては、ブラック、ホワイトの他に、上品で深みのある黄色“ハーモニアスマスタード”も用意。それぞれのカラーに最適なファブリックや木目を採用することでインテリア性を高めると同時に、本体にグランドピアノなどでも使われているポリッシュ仕上げを施すことで特別感も演出しているという。
ピアノ休眠層に刺さるライフスタイルと調和したデザインを追求
このように、日々の生活と調和するデザインを採用したPX-S7000だが、従来のピアノ/電子ピアノと一線を画すデザインを採用するに至った背景には“ピアノ休眠層”の存在がある。ピアノ休眠層とは、ピアノを演奏するスキルがあるにもかかわらず、現在は演奏する習慣のない人たちのことで、実際に調査してみると、世の中にピアノ休眠層が一定数いることが分かった。
この調査結果を踏まえ、ピアノ休眠層を狙った電子ピアノの新モデルの可能性を検討することになり、デザインチームが主導し、英国ロンドンでリサーチとコンセプトワークを実施するプロジェクトを立ち上げた。そこでは、さまざまな人の意見を聞くことができたという。
「例えば、『ピアノが今の居住空間やインテリアと合わない』『ピアノは壁に向かって1人で演奏するため孤独に感じる』『皆で一緒に楽しめるような体験ができないともう一度弾きたいと思えない』といった声を聞くことができ、そうした声に対して、デザイン的にアプローチできれば新しいセグメントとして、ピアノ休眠層を獲得できるのではないかと考えた」(中村氏)
そして、こうした声を踏まえ、“ライフスタイルとの調和”というコンセプトを立て、少し先の未来を見据えたビジョンモデルを制作し、社内での合意を得た。そこから、過去のコンセプトモデルの要素なども取り入れながら製品化可能なデザイン(先行デザイン)にブラッシュアップしていったという。
「ビジョンモデルの段階では、量産性などの実現可能性についてはあまり考えていなかったが、先行デザインではもう少し製品として実現できるものに寄せてアイデアを出していった。その中から実現可能性が高く、コンセプトを具現化できるデザインを選び抜き、最終的な量産デザインの決定までつなげていった。そこに至る過程の中で、今回初めてCAEによる事前検証というアプローチがとられた」(中村氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.