製造業における既存制御の課題解決を目指す、横河電機の自律制御AI活用サービス:FAインタビュー
横河電機はエッジコントローラーで自律制御AI(人工知能)を活用できるサービスを開始した。サービスの概要や特徴について、横河電機 横河プロダクト本部 AI/DXビジネス開拓部 部長の後藤宏紹氏に話を聞いた。
横河電機は2023年2月27日、エッジコントローラーで自律制御AI(人工知能)を活用できるサービスを開始、同社独自の強化学習AIを用いて、プロセス製造業にとどまらない適用を目指している。サービスの概要や特徴について、横河電機 横河プロダクト本部 AI/DXビジネス開拓部 部長の後藤宏紹氏に話を聞いた。
後藤氏は自律制御AIについて「独自のアルゴリズムであるFKDPP(Factorial Kernel Dynamic Policy Programming)によって、最適な制御方法を自ら導き出すことができる。このアルゴリズムを作るために、横河電機の知見を総動員した」と語る。
横河電機ではこの自律制御AIを2020年から駒ヶ根事業所(長野県宮田村)の半導体クリーンルームの空調制御に導入し、電力とガスの使用量を最小限にする制御を行っている他、2022年には化学プラントの35日間自律制御に成功している。
今回は、この自律制御AIでAI制御モデルを作成し、リアルタイムOSコントローラー「e-RT3」に実装して活用するサービスとなる。
利用に当たってはe-RT3や周辺機器に加えて、AI制御モデルを実行するためのライセンス(1台10万円)、AI制御を用いた学習サービス(年2万円、いずれも税別)が必要となり、導入コストは合計約70万円から、となっている。
ユーザーは、対象となる制御機器の目標値や測定値、測定量などの稼働データを、クラウド上のAI制御学習サービスにアップロードし、シミュレーターを作製。AI制御学習を行い、AI制御モデルを生成する。このAI制御モデルを用いてプログラミングを行い、CPUモジュールに実装する。
「ユーザーにAIの知見は必要なく、どの制御を対象にしたいか、制御で見なければならないパラメーターは何で、どんな制御をしたいのかを決めてアップロードしてもらえれば、クラウドでAIモデルを作ることができる」(後藤氏)
既存制御+AI制御=自律制御、まずはAI制御の浸透を目指す
一般的な強化学習に比べて少ない試行回数で学習可能となっており、これまで熟練作業者のカンコツによる調整が必要だった工程においてAIによる自律運転が可能になる。また、既存制御より細やかな制御によって現在値が目標値を行き過ぎてしまうオーバーシュートを抑制する。
「APC(高度制御)、PID(比例、積分、微分)などの既存の制御技術でうまく制御できないため人が行っていた制御をAI制御に置き換えることができる。エッジコントローラーなので取り回しがしやすく、既存の制御はそのままに、エッジコントローラーだけ増設して制御できるようになる」(後藤氏)
適用範囲はプロセス製造業にとどまらず、半導体製造における拡散炉の炉温制御や射出成型機のシリンダーの温度制御、自動車のボディー形状を成型する金属プレスや、医薬品製造の無菌アイソレーターの圧力制御などでも活用可能と見る。
「温度制御から圧力制御、流量制御へと幅を広げていくことができると考えている。モノを提供することで、われわれの想定以上のアイデアがユーザー側からどんどん生まれてくるはず。ようやくAI制御というものに触れられる環境を作ることができた。ユーザーにAI制御の特性を知ってもらうことで、“ここまでは既存技術で、ここから先はAI制御”といった判断もできるようになり、ユーザー側に既存制御+AI制御=自律制御という計算式ができてくるのでは。今回の製品はその第一歩になる」(後藤氏)
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