荒廃した土地も芽吹く「BSC工法」の活用事例、水がなくても使えるペレット型も開発:材料技術(1/2 ページ)
日本工営は、東京農業大学や日健総本社とともに開発した表面浸食防止技術「BSC工法」の導入を進めている。2022年度だけで2万m2の土壌にBSC工法を適用しているという。
日本工営は2023年2月3日、東京農業大学や日健総本社とともに、神奈川県厚木市の同大学で、「BSC(バイオロジカル・ソイル・クラスト)工法現場研究説明会」を開催し、3社で開発した表面浸食防止技術「BSC工法」を紹介した。
BSCとは、糸状菌類や土壌藻類、苔(コケ)などが地表面の土粒子や土塊をからめて形成するシート状の土壌微生物のコロニーを指す。浸食とは、降雨および流水や風の作用などによって表土が流出と飛散して失われ、土地が荒廃すること。
周辺の緑地や土壌環境に応じた周辺の緑地や土壌環境に応じた
BSC工法は、一般的な種子を吹き付ける緑化工法で用いられている緑化種子を、日健総本社製の土壌藻類資材「BSC-1」に変えるだけで効果を発揮する表面浸食防止技術である。ハイドロシーダーでBSC-1を対象の土地に吹き付けるのみで使え、従来のシート/マット型や基材吹付型の「自然植生侵入工」と呼ばれる緑化工法と異なり、法面整形が必要ない。
BSCにより土壌表面の浸食が防止され、周辺から飛来する種子などが活着しやすくなり、植生遷移が早くスタートする他、周辺の緑地や土壌環境、気候条件に応じた自然な植生の形成も後押しする。
緑化種子には、日本を含め世界中に存在し、BSCを形成している土壌藻類の種子を利用している。雌雄がなく、無性生殖で増えるため、遺伝子攪乱(かくらん)などのリスクもない。また、これまで対象のエリアに被覆対策を行った場合、流水が集まるリル部から資材が剥離および流出して浸食が拡大していくが、BSC工法では、水が流れるリル部にBSCが発達して浸食を抑えるため、リル部の拡大を防げる。
BSC工法の活用事例
日本工営では、沖縄県国頭村のやんばる国立公園内で生じた林道の法面崩壊箇所でBSC工法の試験施工を行った。その結果、施工したエリアは緑地が多い周辺と見分けがつかないほど植生が回復した。一方、BSC工法を適用しなかった法面崩壊箇所は、施工後20カ月で浸食が進み、再度崩落している。
日本工営 沖縄支店技術部長 冨坂峰人氏は、「こういった試験施工を行えた要因には、藻類培養環境に優れる沖縄県石垣島で、日健総本社がBSC-1に用いる土壌藻類の大量培養に成功したことがある。BSC-1の土壌藻類は、一般的な種子吹き付け工の外来種子と異なり10年間以上の増殖性能を発揮する。土壌藻類の工事資材化はおそらく世界初だ」と話す。
沖縄県の本島中部や宮城県の自然公園にある法面でも、緑地の生育が不良な植生シート面に補修工としてBSC工法を行い、基材の浸食が抑制され植生が発展したことを確かめた。さらに、山奥の災害跡地などで、植生の復旧と回復を目的に、ヘリコプターやドローンを用いて、BSC-1を散布する取り組みも行っている。これにより、種子の活着と生育の促進、早期植生の回復、崩壊地の浸食防止、下流への土砂流出防止を目指す。
「BSC工法は現在、法面の内側で生じる剥離に力を発揮しないため、東京農業大学とともに、対応策を検討している」(冨坂氏)。
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