【総まとめ】企業が成長していくために必要なデジタルエンジニアの育成:デジタルエンジニアの重要性と育成のコツ(8)(2/2 ページ)
デジタル技術を活用し、QCDの向上を図り、安全で魅力ある製品を創り出せる「デジタルエンジニア」の重要性について説く連載。最終回となる今回は、これまでお届けしてきた内容から重要ポイントを抽出して総まとめとする。
デジタルエンジニアリングの活用に向けて
デジタルエンジニアリングの主要ツールには、3D CADの他にも、CAM、CAE、3Dプリンタ、3Dスキャナーなどがあり、それらについても本連載で取り上げてきました。
連載第4回「3Dプリンタの性能に合わせた設計(DfAM)ができるデジタルエンジニアを育成する」では、3Dプリンタの機種選定から、活用イメージ、3Dプリンタを活用できる人材を育成するためのコツについて説明しました。デジタルエンジニアに“わずかな余裕”や“遊び場”を作ってあげることで、スキルが磨かれ、創造的な発想が生まれ、新たなイノベーションにもつながっていくことをお伝えしました。
連載第5回「設計者CAEを活用した構造解析はじめの一歩」では、「線形静解析」について取り上げ、CAEソフトウェア上での操作手順や設計業務での活用ポイントを解説しました。CAEの活用によって、トラブルを未然に防ぎ、実験や試作の回数を減らすことができ、開発期間の短縮、コスト削減、品質向上につながります。また、試作が減らせることで産業廃棄物も減らせることから環境にも優しいことをお伝えしました。
連載第6回「メカ設計者でも知っておきたい! CAMを使った加工プログラムの作成方法」では、切削加工を行う工作機械を動かすための加工プログラムを作成するCAMについて解説しました。普段、加工を行わないメカ設計者に加工作業を少しでも知ってもらおうとCAMでの作業フローを紹介しました。コンピュータで設定して加工するとはいえ、CAMを行うには、現場ノウハウが必要であり、CAM作業を行う前の段取りの重要性について触れました。
連載第7回「3Dスキャナーの活用とデジタルエンジニアの育成」では、CAT(検査)とRE(リバースエンジニアリング)におけるデジタルエンジニアの育成について解説しました。3DスキャナーによるCATは2次元図面をなくすことにもつながり、またREはこれまでの設計手法を変える1つの革新的なアプローチでもあるため、モノづくりにおけるDXの実現という観点からも重要な取り組みであることを説明しました。
人材育成の重要性
人材を育成していくに当たり、忘れてはならないのが、目標設定と進捗(しんちょく)管理、そして、きちんとした人事評価です。スキルマップを作成して評価したり、資格取得を評価対象にしたりするなど、社員の自発性を引き出す環境づくりも大切になります。社内勉強会を開催したり、外部セミナーに参加したり、コミュニティーを形成したりすることも、継続的な活動を推進していく上で必要です。
企業にとって、社員に教育を受けさせるということは、費用や時間がかかるだけでなく、その間、受講者が通常業務を離れることにもなり、他の社員への負担も増えてしまいます。こう考えると、どうしても教育に対して躊躇(ちゅうちょ)してしまいますが、長期的に見れば、人材の成長が企業の成長につながります。未来への投資だと考えて取り組んでいくべきです。
人材育成は、経営戦略を具現化するために必要です。将来求められるスキルを身に付け、それを自社ノウハウとして蓄積していくためにも、継続的に取り組んでいかなければなりません。そのためには、きちんとした教育が必要です。せっかくデジタルエンジニアリングが活用できる環境を整備しても、使い方が習得できず、結局、2D CADの設計環境に戻ってしまったという話もよく耳にします。費用はかかりますが、外部の教育をうまく活用していくことが最善の道だと筆者は考えます。
優秀な人材を育成していくことが、社内のデジタルエンジニアリングを加速させます。理想通りに行かないこともあると思いますが、適宜、軌道修正しながら、真のデジタルエンジニアリングに向けて取り組んでください。本連載がその一助になれば幸いです。 (連載完)
筆者プロフィール
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 【総まとめ】3Dモノづくりで絶対に押さえておきたい重要ポイント
連載「テルえもんの3Dモノづくり相談所」では、3Dモノづくりを実践する上で直面する“よくある課題”にフォーカスし、その解決策や必要な考え方などについて、筆者の経験や知見を基に詳しく解説する。最終回となる第12回は、過去11回にわたってお届けしてきた内容から“重要ポイント”を抽出し、【総まとめ】とする。 - 【総まとめ】設計業務のデジタル変革を助ける3Dプリンタ&3Dスキャナー活用術
3Dプリンタや3Dスキャナー、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。最終回となる第13回は、これまで解説してきたデジファブ技術活用の内容から特に重要なポイントをピックアップし、“総まとめ”としてお届けする。 - 【総まとめ】“脱2次元”を果たした完全3Dの世界に待つものとは
“脱2次元”できない現場を対象に、どのようなシーンで3D CADが活用できるのか、3次元設計環境をうまく活用することでどのような現場革新が図れるのか、そのメリットや効果を解説し、3次元の設計環境とうまく付き合っていくためのヒントを提示します。最終回はこれまでの内容をおさらいし、重要ポイントをあらためて取り上げます。 - 2D CADから3D CADへの移行はどうしたらいいの?
連載「テルえもんの3Dモノづくり相談所」では、3Dモノづくりを実践する上で直面する“よくある課題”にフォーカスし、その解決策や必要な考え方などについて、筆者の経験や知見を基に詳しく解説する。第1回のテーマは「2D CADから3D CADへの移行」だ。 - 設計者の働き方が変わる!? デジファブ技術が設計業務にもたらすインパクト
3Dプリンタや3Dスキャナ、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。デジファブ技術を活用した新たなモノづくりの視点や働き方、業務改革のヒントを製造業の設計現場視点で考察していく。 - 脱2次元できない、3次元化が進まない現場から聞こえる3つの「ない」
“脱2次元”できない現場を対象に、どのようなシーンで3D CADが活用できるのか、3次元設計環境をうまく活用することでどのような現場革新が図れるのか、そのメリットや効果を解説し、3次元の設計環境とうまく付き合っていくためのヒントを提示します。