スマートホームのゲームチェンジャー「Matter」とは何か:IoT基礎解説(1/2 ページ)
スマートホームの到来を、本当の意味で加速すると期待されている「Matter」。Matterはなぜスマートホームのゲームチェンジャーになり得るのかを解説する。
IoT(モノのインターネット)の活用によって住宅内のさまざまな機器がつながり利便性が向上するスマートホームの実現がうたわれるようになって久しい。2014年に登場した「Amazon Echo」や「Google Home(現Google Nest)」などのスマートスピーカーにより、スマートホームが加速するとも言われたが、それから8年近く経過した現在もスマートホームが身近な存在になっているとはいい難い状況だ。
このスマートホームの到来を、本当の意味で加速すると期待されているのが「Matter」だ。Matterは、なぜスマートホームのゲームチェンジャーになり得るのか。本稿では、クラウドベースのスマートホームサービス「SpaceCore」を展開するアクセルラボ CTOの青木継孝氏が、2023年1月26日に同社ショールーム(東京都新宿区)で行った会見の内容を基に解説する。
スマートホーム機器の標準規格の本命に
Matterは、スマートホーム機器の安全性と信頼性を担保するとともに、IoT機器としての利便性を阻害しないシームレスな利用を実現するためにCSA(Connectivity Standards Alliance)が策定を進めている標準規格である。
2021年5月に前身のZigbeeアライアンスから名称を変更したCSAには、スマートスピーカーを展開するアマゾン(Amazon.com)、グーグル(Google)、アップル(Apple)の他、サムスン電子(Samsung Electronics)、LG電子(LG Electronics)、ハイアール(Haier)、ファーウェイ(Huawei)、イケア(IKEA)などが幹事企業に当たるプロモーター(Promoter)として参画しており、スマートホーム機器の標準規格の本命と目されている。2022年10月に、規格のバージョン1.0に当たる「Matter 1.0」がリリースされてからは、Matter認証デバイスが続々と認証済みとなっている。2022年11月時点の190種類の製品/アプリから、2023年1月には550種類が認証取得済みになっており、さらに約150種類が認証取得待ちとなっている状況だ。
スマートホーム機器のUSBを目指すMatter
1998年ごろから米国で普及が始まったスマートホームだが、20年以上が経過した現在でも日常生活で当たり前のものになっているとはいい難い。2021年時点の米国での普及率は35.6%にとどまっており、日本に至っては12.6%と低い水準となっている。
このようなスマートホーム普及の大きな足かせになってきたのが、スマートホームに用いられる通信規格やプラットフォームの乱立である。例えば、通信規格だけでも、Wi-FiやBluetoothの他にも、CSAの前身団体が策定したZigbee、Z-Wave、Threadなどがある。
しかし、ユーザー利便性と普及拡大のためには互換性や相互接続性を確保することが非常に重要になる。例えば、PCの物理インタフェースの場合、USBの登場によって相互接続性が大幅に拡大したことは周知の通りだ。Matterは、スマートホーム機器のUSBとなることを目指しているのである。
もちろん、過去にもスマートホームの規格共通化の試みがなかったわけではない。インテル(Intel)やサムスン電子が主導したOIC(Open Interconnect Consortium)やLinux Foundationが設立したAllseen Alliance、国内家電メーカーが主導したECHONETなど2015〜2020年にかけてさまざまな団体が活動を繰り広げたものの、デファクトとなるような国際標準を作り上げることはできなかった。
今回、Matterに期待が集まっているのは、スマートホームの中核機器として期待されるスマートスピーカーの大手企業であるアマゾン、グーグル、アップルがそろってプロモーターとして参加しており、そこにグローバルの大手家電メーカーや、関連ICを供給する半導体メーカーも名を連ねているからだ。過去のスマートホームの標準化活動に参画してきたプロモーター各社は、そこで得た知見や教訓もMatterの設計に生かしており、このことによって優れた仕様になっている点でも高い評価が得られている。
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