振動・騒音対策の前に「周波数分析」の必要性と原理を理解する:CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(4)(2/4 ページ)
連載「CAEと計測技術を使った振動・騒音対策」では、“解析専任者に連絡する前に、設計者がやるべきこと”を主眼に、CAEと計測技術を用いた機械の振動対策と騒音対策の考え方や、その手順について詳しく解説する。連載第3回では「周波数分析」について取り上げる。
周波数分析の必要性
図1の音圧の時刻歴波形を周波数分析したものを図7に示します。この結果にはA特性のフィルターをかけていませんので、194[Hz]の成分を相手にする必要はなく、646[Hz]の成分をターゲットとして対策を立案すればよいことになります。
図3の透過損失から、板厚1[mm]鋼板で囲ったら鋼板を透過してくる音は約26[dB]低くなることが分かります。これは理想的な条件であって、26[dB]の騒音低減は期待し過ぎですが、板厚1[mm]鋼板でかなり効果があることは予測できます。
次に、図4の残響室法吸音率を見れば、何mmの厚さの吸音材を壁に貼り付ければよいかの指針が得られます。厚さ25[mm]の吸音材ではあまり効果が期待できず、少なくとも50[mm]以上の厚さの吸音材が必要だと分かります。ということで、周波数分析は騒音と振動対策の常とう手段です。
周波数分析の原理
周波数分析は「FFTアナライザ」を使って行うのですが、対策では振動や騒音の周波数とそのピーク値を読み取ったり、これに伝達関数を掛け算したりしたくなります。ということは、全ての操作を「Excel」でできれば便利です。
最近のFFTアナライザは、USBメモリに周波数分析結果をテキストデータとして出力できるので、これを使わない手はありません。また、FFTアナライザを使わなくても、USBポートにつなぐだけでPCがデジタルオシロスコープになる廉価なセットが普及しているので、測定データをテキストファイル出力すれば、容易に振動や騒音データをExcelに取り込めますし、騒音ならばノートPCのマイクを使うとWAVファイルになります(次回、WAVファイルをExcelに取り込めるマクロ付きExcelファイルを公開します)。
Excelで周波数分析を行う方法を説明する前に、“周波数分析の原理”を説明します。図8に、振幅1のsin波を示します。1周期0.01[s]なので、100[Hz]だと分かります。でも、よ〜く見てみると101[Hz]かもしれません。「この波形を100[Hz]のsin波であることを定量的に示せ」といわれたらどうしましょうか。
「100[Hz]なのかな?」と思ったら、調べたい波形f(t)に100[Hz]のsin波を掛けて積分してみましょう(式5)。
積分を図示したものを図9に示します。f(t)のプラスのところと100[Hz]のsin波のプラスのところの積はプラスになりますし、f(t)のマイナスのところと100[Hz]のsin波のマイナスのところの積もプラスになるので、この積は必ずプラス値となります。よって、積分結果もプラス値となります。
では、100[Hz]以外のsin波を掛けたときはどうでしょうか。f(t)とsin波の積は常にプラスとはならずマイナスになる時間帯があるはずで、積分値は小さくなります。ここが周波数分析のポイントです。では、200[Hz]のsin波を掛けて積分してみましょう。この結果を図10に示します。掛け算の結果にはプラスとマイナスがあって、積分はそれらが相殺されてゼロになりました。
ということで、いろいろな周波数のsin波を掛けて積分した結果を表1に示します。今回は、積分をExcelでやったので正確には式6で示したような総和をとりました。100[Hz]以外の積分値はゼロになります。こうすることで、波形の周波数が100[Hz]であることを定量的に示すことができました。
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