将来、水素エネルギーは工場にどうやって供給されることになるのか?:製造業×脱炭素 インタビュー(1/2 ページ)
将来、工場でも水素エネルギーを活用することになるかもしれない。その時、どのような課題が生じ得るのか。福島県浪江町で実証実験に取り組む日立製作所担当者に話を聞いた。
CO2を排出しない次世代のエネルギー源として、水素への注目が高まっている。特に、再生可能エネルギー由来の電力で製造された「グリーン水素」は、カーボンニュートラル実現の切り札にもなり得る。まだ調達や生産コストなど経済性の面で課題は残るが、より安価な水素製造や、工場などでの安定的利用を目指した取り組みが産業界でも始まっている。
ただし、実際に工場などで水素を利用するとなると、水素の製造方法や活用方法だけでなく、「いかに工場に水素エネルギーを届けるか」という供給方法の確立も重要になるはずだ。つまり「水素サプライチェーン」の構築を考える必要がある。
近年、国内でも官公庁や民間企業、自治体、研究機関などが連携する形で水素サプライチェーン構築に向けた実証実験が進んでいる。その1つが、日立製作所が福島県浪江町で進めるプロジェクトだ。
将来、工場でも水素エネルギーを活用することになるかもしれない。その時、水素エネルギーの供給方式はどうなるのか。また、実現に向けて現時点でどのような課題が想定されるのか。日立製作所 水・環境ビジネスユニット 環境事業部 スマートユーティリティ本部長 兼 カーボンニュートラル推進室長の後藤田龍介氏と同事業部 スマートユーティリティ本部 カーボンニュートラル推進室 主任技師の渡邊浩之氏に聞いた。
世界最大級の水素製造装置
日立製作所が進める実証実験では、民生向けと産業向け、それぞれにとって最適な水素サプライチェーンの構築を目指している。同プロジェクトは、日立製作所と浪江町、丸紅、パナソニック、みやぎ生協・コープふくしまが締結した「浪江町の復興まちづくり及び水素利活用を含めた脱炭素化に向けた連携協力に関する協定」に基づいて推進されている。2023年1〜2月にサプライチェーンシステム全体の準備を整え、同年3月から試験を開始する予定だ。
なお、実証のフィールドとなる福島県浪江町には、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を製造する実証施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」がある。浪江町では世界最大級の水素製造装置を備えたFH2Rを中心に、水素エネルギーの活用用途を広げる取り組みを進めており、日立製作所の実証実験もその1つに位置付けられるようだ。
民生向けでは小型シリンダーで水素配送
先に民生向けの水素サプライチェーンの概要を紹介しよう。小型シリンダーを用いた家庭への水素配送の方式を検証する。小型シリンダーは既存の物流網を使い、他の荷物と混載する形でLPガスなどを利用する一般家庭に届けられる。混載する形のため、運搬の物流コストを低減する効果が期待される。配送後は家庭に設置したパナソニック製の燃料電池で発電に利用されるという流れだ。
実は浪江町での実証実験に先立って、日立製作所は2017年から2021年にかけて宮城県富谷市でも民生向けの水素サプライチェーン構築に向けた実証実験を実施している。富谷市の実験では、水素吸蔵合金カセットに水素を充填して一般家庭や市内店舗、小学校に隣接する児童クラブなどに設置された純水素型燃料電池に運搬する方式を取った。ただ実証期間の間に、より軽量で運搬しやすい小型シリンダーによる水素運搬が選択肢として浮上してきたため、浪江町での実証実験では同方式に切り替えたという。
もう1つの変更点として、純水素型燃料電池をブラザーの製品からパナソニックの製品に変えている。これは浪江町の実験では常用電源を求めており、その用途で設計されていたパナソニック製品の方が好ましかったという事情がある。ただ、後藤田氏は「ブラザー製品は水素吸蔵合金から水素を取り出すのには向いていた。水素の供給の方式によって、最適な燃料電池の選び方も変わる可能性がある」と補足する。
燃料電池で発電した電力を工場に
ただし、ここまで説明した民生向けの水素サプライチェーンの仕組みを、産業向けにそのまま転用することは困難だ。「工場の電力消費量は一般家庭と比較して非常に大きい。水素エネルギーを利用する場合は、水素を大量に配送しなければならないが、そうなると物流コストの面で経済性が悪くなる」(渡邊氏)。
そのため産業向けの水素サプライチェーンでは、水素製造拠点の付近に燃料電池を設置して、そこで発電した電力を既存の配電網を使って需要家に届ける方式を採用する。配電網では再生可能エネルギーなども併せて送電することを想定する。実証実験では需要家である工場の過去の消費電力を基に需要予測を行い、それに応じて5kWの燃料電池2台の発電量を制御することで電力需給バランスの最適化も狙う。
渡邊氏は「経済性がなければ産業界での水素活用は広がらないだろう。そのため、現在丸紅と共同で需要家側と供給者側の両方から見た水素エネルギー供給の経済性評価を進めている。両者のギャップを検証して、実際にその差をどの程度埋められるかを検討していく」と語った。
こうした方式とは別に、電力の需給バランス次第ではあるが、工場敷地内内に水電解装置を設置して燃料電池で発電を行う方式もあり得る。太陽光発電などと組み合わせてエネルギー源のベストミックスを探ることもあり得るだろう。ただしその場合には「発電だけでなく蓄電についても考えて、工場の敷地面積や蓄電池、燃料電池の容量なども総合的に見て検討していく必要がある」(渡邊氏)。
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