3Dスキャナーの活用とデジタルエンジニアの育成:デジタルエンジニアの重要性と育成のコツ(7)(2/2 ページ)
連載第7回は「3Dスキャナー」を題材に、形状品質の検査(CAT:Computer Aided Testing)やリバースエンジニアリング(RE:Reverse Engineering)での活用とそのポイント、そして3Dスキャナーを適切に使いこなせるデジタルエンジニア育成の重要性について説く。
REとデジタルエンジニアの育成
リバースエンジニアリング(Reverse Engineering)は、さまざまな業界で使われている言葉で、直訳すると“逆行工学”となります。その意味の通り、モノづくりの世界においては、設計図面からモノを作るという通常の流れとは逆のアプローチで、既に出来上がったモノを分解したり、計測したりするなどして、設計仕様や機能を調査することを指します。
3Dスキャナーを活用したREは、主に3D CADデータがなく、現物しかない場合に使用されます。用途としては、既製品の分析だけでなく、破損部品の修復、治具設計や金型設計にも役立てることができます。
粘土などで手作りしたモックアップなどを3Dスキャンしてデジタルデータ化し、それを設計に生かすことも可能です。さらに、人体を3Dスキャンして、その人の身体に合ったモノを作ったり、工場の中を3Dスキャンして設備設計やレイアウト検討に役立てたりなど、製造業だけでなく、医療や建築/建設、土木関係などの幅広い領域で3Dスキャナーの活用が進んでいます。
その他、何らかの事情で3D CADデータがない場合など、現物を3Dスキャンしてデジタルデータ化することで、リデザインに役立てたり、CAEで解析したり、CAMで加工したり、3Dプリンタで造形したり、CG/レンダリングを施したりなど、さまざまな用途にも活用できます。
ここで問題となるのが、“3Dスキャンしたデータは、必ずといってよいほど、編集/修正作業が伴う”ということです。3Dスキャン=3D CADデータではありません。よく勘違いされますが、3Dスキャンしたデータは、点群でポリゴンデータ(STL)に変換されますが、そのまま3D CADで編集利用することは基本的にできません。通常のサーフェスやソリッドといった3D CADデータとは異なるため、後工程での利用が困難なこともあり、取り扱いには注意が必要です。
編集や修正作業では、3Dスキャンできなかった箇所の穴埋め、ノイズ処理、スムーズ処理などを行います。その後、面張りやソリッド化作業などを施し、3D CADデータ化していきます。これらの作業を含めてREと呼ぶわけですが、専用機能が搭載されたソフトウェアを使って、自動でCAD面を生成したり、境界線/面構成を手動で作成して計測データに沿った面を生成したり、計測データを参照してモデリングを行ったりできます。
REは、普段3D CADを使っている人であれば、ある程度トレーニングを受けて経験を積めば使えるようになりますが、習得には時間が必要です。実際に、外部のトレーニングを受けるだけでなく、練習として自社製品を3Dスキャンし、3D CADデータ化してみるのもよいでしょう。また、他社製品を3Dスキャンして3D CADデータ化すれば、そこから多くを学ぶことができるはずです。
さらに、3Dデータ化したモデルを3Dプリントしたり、CAMで加工プログラムを作成して切削して実物を作ってみたりするのも、モノづくりの流れを学び/体験できる優良なカリキュラムになります。製品を3Dスキャンして、それに合う治具を設計したり、金型を設計したりするのも実務的なトレーニングとしてオススメです。
3Dスキャナーを設計業務変革、DXの第一歩として活用しよう
人がノギスなどを用いて手作業で計測するには時間がかかり、かつ自由曲面のような計測が困難なものであっても、3Dスキャナーを用いれば効率的にデジタルデータ化でき、それをCATやREに役立てることで、工数削減、品質向上などにつなげられます。3DスキャナーによるCATは2次元図面をなくすことにもつながり、またREはこれまでの設計手法を変える1つの革新的なアプローチでもあるため、モノづくりにおけるDXの実現という観点からも重要な取り組みだといえます。
従来の業務の進め方や、客先との決まりごとがあるため、今すぐに3Dスキャナーを用いた検査や品質保証を実現することは難しいかもしれません。しかし、DXの第一歩として固定概念を捨て去り、3Dスキャナーを活用した検査業務の変革に取り組んでみてはいかがでしょうか。
あるいは、自社の設計スキル、現場力のアップを目的に、3Dスキャナーの導入を検討し、設計者の働き方改革を進めてみてはどうでしょうか。もし、はじめから自分たちだけで取り組むのが難しいのであれば、外部の3D測定サービスなどを活用してみるのも手です。良い製品を観察して学ぶのも設計者として大切なことです。その際、細かい形状を詳しく調べるのに3Dスキャナーが大活躍することでしょう。
3Dスキャナーは、3Dプリンタと同じくさまざまな種類があり、自社の目的に合った3Dスキャナーを選ぶ必要があります。メーカーによって使い勝手も違います。メーカーごとに独自環境の下でテストを行っているため、カタログ値のみで良しあしを判断するのも困難です。機種選定の際は、実際に3Dスキャンして比較した方がよいでしょう。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 【総まとめ】3Dモノづくりで絶対に押さえておきたい重要ポイント
連載「テルえもんの3Dモノづくり相談所」では、3Dモノづくりを実践する上で直面する“よくある課題”にフォーカスし、その解決策や必要な考え方などについて、筆者の経験や知見を基に詳しく解説する。最終回となる第12回は、過去11回にわたってお届けしてきた内容から“重要ポイント”を抽出し、【総まとめ】とする。 - 【総まとめ】設計業務のデジタル変革を助ける3Dプリンタ&3Dスキャナー活用術
3Dプリンタや3Dスキャナー、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。最終回となる第13回は、これまで解説してきたデジファブ技術活用の内容から特に重要なポイントをピックアップし、“総まとめ”としてお届けする。 - 【総まとめ】“脱2次元”を果たした完全3Dの世界に待つものとは
“脱2次元”できない現場を対象に、どのようなシーンで3D CADが活用できるのか、3次元設計環境をうまく活用することでどのような現場革新が図れるのか、そのメリットや効果を解説し、3次元の設計環境とうまく付き合っていくためのヒントを提示します。最終回はこれまでの内容をおさらいし、重要ポイントをあらためて取り上げます。 - 2D CADから3D CADへの移行はどうしたらいいの?
連載「テルえもんの3Dモノづくり相談所」では、3Dモノづくりを実践する上で直面する“よくある課題”にフォーカスし、その解決策や必要な考え方などについて、筆者の経験や知見を基に詳しく解説する。第1回のテーマは「2D CADから3D CADへの移行」だ。 - 設計者の働き方が変わる!? デジファブ技術が設計業務にもたらすインパクト
3Dプリンタや3Dスキャナ、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。デジファブ技術を活用した新たなモノづくりの視点や働き方、業務改革のヒントを製造業の設計現場視点で考察していく。 - 脱2次元できない、3次元化が進まない現場から聞こえる3つの「ない」
“脱2次元”できない現場を対象に、どのようなシーンで3D CADが活用できるのか、3次元設計環境をうまく活用することでどのような現場革新が図れるのか、そのメリットや効果を解説し、3次元の設計環境とうまく付き合っていくためのヒントを提示します。