メルカリ並みに手軽な越境ECも、「眼鏡の町」鯖江市が進めるモノづくりDX:未来につなぐ中小製造業の在り方(2/2 ページ)
福井県鯖江市は眼鏡産業を中心とするモノづくりの町だ。コロナ禍で大きな打撃を受けたが、その対策として積極的なDXを推進している。同市の取り組みは単なるデジタル化ではなく、その先のデータ活用を通じたサービタイゼーションまで見据える。
激しく変わる消費者のニーズにどう対応するか
だが、展示会の来訪者の反応などを通じて田中氏は、消費者側の変化を感じるようにもなったという。「国内消費者だけでなく、海外消費者も日本の工芸品に注目するようになっている。だが、オンラインで何でも手に入るようになったこともあり、消費者の好みの変化自体もより激しくなった」(田中氏)。
世界全体で激しく移り変わる消費者のニーズにどう応えていくのか。これに対して田中氏は、無尽蔵なニーズに逐一応えるのではなく、自ら新しいニーズを創出していくことに光明を見いだす。そこで重要になってくるのが、製造データに加えて消費者データの収集、分析、活用だ。
「眼鏡は職人1人が作っているのではなく、さまざまな人が関係して、200〜300くらいの製造工程を経て作られる。漆器も繊維も同じだ。これらの工程を全て要素分解して、技術を産業の垣根を越えて組み合わせる。これによって、いわゆる『モノからコトへ』の流れの中でのサービタイゼーションも実現できるかもしれない。消費者のデータを連携させることで、これまでにないニーズにも応えられるような仕組みを生み出したい」(田中氏)
安全で活用しやすいデータ基盤を
現時点でこれらのデータはまだまだ蓄積がなされていない。まずはデータを収集し、活用するための仕組みづくりが必要となる。しかし、鯖江商工会議所が集めようとするデータは、各企業の製造データという非常にセンシティブな情報だ。万が一のデータ紛失や流出は絶対に避けなければならない。一方で、データは将来的な利用も見据えて、利用しやすい形で蓄積していく必要がある。
そこで、鯖江商工会議所がデータの収集と蓄積を担うプラットフォームとして注目したのがAOS IndustryDXであった。田中氏は「各社のデータプラットフォームを比較したところ、IndustryDXがデータ保護を再優先しつつも、将来のAI(人工知能)活用も視野に入れて運用できるサービスだと分かった」と語る。
AOS IndustryDXを展開するAOSデータはもともと、M&A時のデューデリジェンスなどリーガルテック分野でのデータ活用、保管技術を強みとする企業だ。AOSデータ 取締役の志田大輔氏は、高レベルのデータ保護と利便性の両立は「AOSデータの得意領域だ」と胸を張る。
AOS IndustryDXはデータを保護してバックアップする機能とデータ共有機能がバランスよく両立している点が特徴だという。さらに保存したデータには、例えば生産管理のデータであれば「製品型番」「製品名」「製造ロット」などのようなメタ情報を持つタグを付与できる。将来的にAI活用を行う際に役立つ。
「複数のデータの組み合わせを実現するプラットフォームは、製造業のサービス化の可能性を広げ得る。だが、その前提としてセキュリティが担保されていなければならない。AOS IndustryDXは商工会議所のデータや消費者のニーズのデータを同一基盤上で保全できる。国産ITベンダーのため海外企業よりもデータの保全に安心感があるという点も評価のポイントとなるだろう」(志田氏)
鯖江商工会議所は消費者のデータを収集する機会として、「MONOZUKURI EXPO『MADE FROM』」のような企業と消費者が集まる展示会や越境ECの利用時などを検討しているという。
この他のAOSデータのソリューションとして、鯖江商工会議所ではブロックチェーン技術を活用した真贋判定システム「HyperJ.ai」も導入した。日本の製造業が海外展開をする際には、模倣品の問題がつきまとう。眼鏡製品も例外ではなく、「ものによるが、大きい場合には模倣品によって月当たり数百万円の被害が出ることもある」(田中氏)という。HyperJ.aiの活用は模倣品対策の負荷軽減につながる。鯖江商工会議所はデザインだけでなく製造技術や素材情報も含めて守りながら、海外展開を目指す方針だ。
中小零細のモノづくりもサービスで人を感動させるように
田中氏は、全国の商工会議所の中でも、鯖江商工会議所のような規模でサービタイゼーションを視野に入れたDXを展開する事例は珍しいとして、「将来的には鯖江市の取り組みを他地域にも広げていきたい」(田中氏)と強い意欲を見せる。
「消費者がモノの『所有』それ自体ではなく、モノを通じて得られる利益などの『成果』に価値の重きを置くようになった。日本の中小零細のモノづくり企業も、モノだけでなく、サービスによっても人を感動させて対価を得られる仕組みを作っていかなければならない」(田中氏)
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