技術者たちの「予見」が、リチウムイオン電池の安全を支えている:今こそ知りたい電池のあれこれ(17)(2/3 ページ)
今やリチウムイオン電池は私たちにとって身近で欠かせない存在となっています。その一方で、取扱いを誤ると重大な事故を引き起こしかねない危険性を有していることも事実です。今回はリチウムイオン電池の「安全性」について、これまでの連載とは少し視点を変えて考えていきたいと思います。
リチウムイオン電池は限られた体積の中に多くのエネルギーを内包しています。そのため、電池の性能と安全性はどうしてもトレードオフになりがちです。また、電池としての動作原理が化学反応に基づく以上、どんな構成の電池であってもいずれ必ず寿命を迎えます。
電池がいずれ機能しなくなることは避けられませんが、リチウムイオン電池に要求される安全性の基準は次のような点にあるかと思います。破裂や発火といった危険な事象を起こさせることなく静かに寿命を迎えさせるにはどうしたらよいのか? 「通常使用」「予見可能な誤使用」といった考え方を前提として「万が一」「想定外」といった事象をどこまで無くせるか? そして、ユーザー要求に応えるための性能と、ユーザーに与える被害を抑えるための安全性にどう折り合いをつけるのか?
以前にもご紹介した、熱暴走や異常発熱に至るようなきっかけがどのような状態のときに起こり得る事象なのか、「通常使用」の環境下でも起こり得るのか、あるいは「予見可能な誤使用」によって引き起こされるのか……そういった種々の要素をどれだけ「予見」できるかという視点が技術者には求められます。
例えば、下図のように電池の外部でプラスとマイナスが直接つながってしまう外部短絡は、典型的な「予見可能な誤使用」の1つです。
このような外部短絡の多くは、電池自体または工具の適切な絶縁処理という「通常使用」がなされなかったために発生します。しかし、こういった危険事象の「予見」とその対策を、全て技術者の経験や想像力に任せるというのは限界があります。そのため、ある程度一般的な範囲においては、製品の安全性を評価するための規格試験が存在します。
さまざまな安全性試験……それでも発火事故は起きる
リチウムイオン電池における安全性試験はその特徴から「電気的試験」「環境試験」「機械的試験」の3つに大きく分類することができます。
「電気的試験」は、いわゆる過充電や過放電とった電気的な過負荷を電池に与えた場合の影響度を評価する試験です。また「環境試験」は文字通り、温度や湿度、気圧など、電池がさらされる外部環境の影響度を評価する試験です。
「電気的試験」および「環境試験」は、電池の充放電に基づく電気化学特性、環境影響を考慮した保存や寿命特性といった、「電池の基本的な性能評価の延長線上に想定されるオーバースペックな事象」を扱うのが特徴です。
それらに対して「機械的試験」は一般的な電池の性能評価の枠組みを超えた範囲の事象を扱います。主に外部衝撃で物理的に電池が破壊される場合を想定しており、各種試験装置を用いた積極的な電池破壊を伴うのが特徴です。
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