検索
特集

絞り込まれてきたイプシロン6号機打上失敗の要因、イプシロンSやH3への影響は宇宙開発(3/5 ページ)

2022年10月12日のイプシロン6号機の打ち上げ失敗は、H-IIAロケット6号機以来、じつに19年ぶりに日本の基幹ロケットの打ち上げで起こった失敗になる。この約1カ月間の調査を経て、その要因はかなり絞り込まれてきた。今後の日本のロケット打ち上げプロジェクトにどのような影響が起こり得るかも含めて解説する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

原因はパイロ弁? 燃料供給配管?

 (2)について説明するため、まずはパイロ弁の仕組みを詳しく見てみよう。パイロ弁とは、火工品(=Pyrotechnic)によって作動するバルブのことだ。電動のバルブが何度も閉じたり開いたりできるのに対し、パイロ弁は火工品に点火して動かすため、閉→開か、あるいはその逆か、一度きりの一方通行の動作となる。

 ロケットや衛星は、打ち上げ後に問題が起きても修理できず、故障が即ミッションの失敗につながってしまうので、信頼性が非常に重視される。バルブのような可動部は本質的に故障が発生しやすいところなのだが、火工品は構造がシンプルで、電流さえ流せば確実に動作することから、特に信頼性が求められる場所で使われる傾向がある。

 パイロ弁は、2段階の点火により動作する。まず「イニシエータ」に電力を送って点火。その火炎が内部の通路を伝わり、次に「ブースター」が点火、ここで発生したガスが「ラム」を下方へと押し出し、配管の仕切り板を打ち抜く。この一連のプロセスにより、流路が開通する仕組みだ。

パイロ弁の構造と動作原理
パイロ弁の構造と動作原理。イニシエータは2重化されており、どちらかが不点火でも大丈夫のはずだ[クリックで拡大] 出所:JAXA

 さらに、イニシエータは2重化されており、どちらか一方でも点火すれば、問題なく動作するよう考えられている。ブースター以降はシングル構成なものの、より信頼性が高くなっているといえるだろう。

 パイロ弁は、イニシエータ、PCA(ブースター込み)、バルブ本体という3つのパーツで構成。バルブ本体は、部品/コンポーネント業者から、RCSメーカーへ輸送され、そこで配管に溶接される。イニシエータとPCAは、射場へ輸送後に保管。ロケットの組み立て時に、バルブ本体への取り付けが行われる。

イニシエータ、PCA、バルブ本体の組み付け手順
イニシエータ、PCA、バルブ本体の組み付け手順。各パーツの間には、漏れ防止のOリングが使われる[クリックで拡大] 出所:JAXA

 FTAでは、これら3つのパーツについて調査した。それぞれ、製造不良についてはまだ調査中なものの、フライト中の損傷については、可能性を排除した。その他、保管不良や組み付け不良など、幾つかの要因がまだ確認中のため、可能性として残っている。

 一方、(3)については、燃料タンクの出口、配管、パイロ弁内の流路に関し、それぞれ閉塞の可能性を調査。配管については、氷結やコンタミ(異物)などの可能性はないと判断され、要因から排除された。現在、燃料タンク内のダイアフラムが変形して閉塞した可能性と、パイロ弁の流路が閉塞した可能性について、引き続き確認を進めている。

まだ可能性のある要因として2つが残った
燃料供給配管の閉塞についてはほとんど排除されたものの、まだ可能性のある要因として2つが残った[クリックで拡大] 出所:JAXA

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る