【DXで勝ち抜く具体例・その3】需給を拡大するビジネス:DXによる製造業の進化(6)(3/3 ページ)
国内企業に強く求められているDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、製造業がどのような進化を遂げられるのかを解説する本連載。第6回は、第2回で取り上げたDXで勝ち抜く4つの方向性のうち「需給を拡大するビジネス」の具体例として、Fictiv、Sharing FACTORY、Rentio、GMSの取り組みを紹介する。
GMS――購入するクルマを担保にできる
GMS(Global Mobility Service)は、フィンテックとIoT(モノのインターネット)を基盤としたモビリティファイナンスの提供を通じて世界の社会課題を解決する日本のスタートアップです。2013年に設立後、フィリピン、カンボジア、インドネシアなどへの進出を果たすなど、着実に事業活動を拡大しています。
GMSのターゲットは、支払能力があるにもかかわらず、与信審査が通らず、オートローンを組めない人々です。GMSを使えば、そのような人でも与信審査を経ずにオートローンを利用できるようになります。なぜなら、購入するクルマを担保にできるからです。
GMSでクルマを買った人は、エンジンを遠隔起動制御できるMCCS(Mobility-Cloud Connecting System)を搭載することが求められます。ローンの返済が滞るとエンジンがかからなくなり、それでも入金がなければクルマが回収されるという仕組みです。反対に、ローンの返済が完了すればMCCSは取り外されます。
GMSの普及は、クルマの購入者のみならず、金融機関や自動車販売店にとってもメリットがあります。ローンの提供による金利収入やクルマの販売台数の増加につながるからです。新興国のモータリゼーションを後押しするビジネスといっても過言ではないでしょう。
MCCSは、クルマのみならず、バイクや建設機械などにも搭載可能です。同様のビジネスをクルマ以外にも展開することで、事業機会の拡大を図ることも多分に想定されます。
GMSは、IoTデバイスからのデータをもとに車両のリアルタイム管理を可能とするMSPF(Mobility Service Platform)も提供しています。この仕組みを活用すれば、車両の走行履歴をもとに運転の安全性を評価し、自動車保険の料率に反映することもできるかもしれません。
需給を拡大するビジネスに求められる要件
需給を拡大するビジネスの価値は、今までにはない売り方/買い方の提供を通じて、モノやサービスをより便利に使えるようにすることにあります。既存の事業者からすると、その出現は脅威と映るかもしれません。しかし、新たな選択肢の提供によって市場の魅力度を高められればユーザーの総数が増えます。需給を拡大するビジネスを展開するにあたっては、そういう市場拡大効果のあるビジネスモデルを描くことが望まれます。
新たな選択肢を提供したところで、提供者と利用者のニーズがマッチしなければ、需給の拡大につながりません。供給過多のモノやサービスは価格を下げ、その反対の場合は価格を上げるといったダイナミックプライシングの仕組みを持つことで、需給のバランスを図ることが肝要です。
今までにはない売り方/買い方を提供するビジネスであるが故に、利用に当たって不安を覚えるユーザーも少なくないと予想されます。だからこそ、初期の段階では信頼性を高めることが重要です。公的機関の認証を得たり、マスメディアに広告を掲載したりすることで、信用度や認知度の向上を図ることも一考です。保険への加入による不測の事態への補償、初回無料やポイント還元による利用の訴求なども有効でしょう。
さて、今回は、「需給を拡大するビジネス」の実例として、Fictiv、Sharing FACTORY、Rentio、GMSの4社を取り上げるとともに、ビジネスモデルとして満たすべき要件を解説しました。次回の第7回は、「収益機会を拡張するビジネス」の具体例を紹介します。
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筆者プロフィール
小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、成長戦略やアライアンス戦略の策定、構造改革の推進などを通じてビジネスモデルの革新を支援。近著に、『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)、『サプライウェブ−次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)など。
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